野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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Prologue (最終回)

 雨が降ってきた。だが空を見上げれば、雲一つない。何、この町ではよくあること。お天道様を彼方に見やりながら、雨に打たれるなどは茶飯事である。
―嗚呼、全く忌々しい空だ。
 そういえば奴は、この空がとにかく嫌いだった。
「ここに来てだいぶ長くなるが、結局最後までこの町を好きになるなんてことはなかったな。“住めば都”なんて、あれは詭弁だね」
「まあ、いいだろう。もうすぐこことも縁が切れるはずだ」
「それもそうか。いや、全く清々するね。こんな町に住んでりゃ、人生損ばかりだ。さあ、これから忙しくなるぞ。明日は真壁、明後日は内子だ」
「なんだ、随分張りきってるようだが、大丈夫か」
「何、思うだけで何処へだって行けるさ。だが実際忙しい。用事が済んだら俺はもう行くぜ」
「用事?用事とは何のことだ」
「おいおい、今から惚けてもらっちゃ困るぜ。君と俺との間に、用事のない時なんてあったか?」
 そこで目が覚めた。室の中はまだ暗い。置き時計を見ると、床に入ってからまだ一時間も経っていない。
 時々こういうことがある。寝ようと思って目を閉じても、しばらくは無意識と意識の間を漂っているような心地で、その間、奇妙な映像がひっきりなしに瞼の裏に映し出される。はっと正気に戻ると、時間はそれほど進んでいない。私は、これが白日夢というものだろうかと思った。
 また、偶には幻覚のようなものを感ずることもあった。ある夜、布団に入りざまにふと目を開けてみると、天井から細長い脚を有つ蜘蛛のような、あるいは指の長い人の手のようなものが、私の顔めがけてスーッと下りてきた。私は思わず飛び起きて、室の灯りを点けたのだが、そこには何もない。はだけた布団があるだけだった。他日、風雨の荒れる夜半、突然に男女の楽しげな笑い声が聞こえるということもあった。外を歩く人の話し声かもしれなかったが、あんな嵐の晩に、賑々しく歩ける人がいるだろうか。それに、外にいる人たちの声が、耳元で聞こえることがあるのだろうか。
 そういうこともあり、近頃私は、眠るのが無性に恐くなり、夜にすんなり寝つくことができなくなったのだ。
「おい君、虚弱を気取っちゃいけないよ。悪趣味じゃないか」
「しかし駄目なものは駄目なんだ。俺は疲れている。放っといてくれ」
「君はいつも考え過ぎだ。何も不安に思うことはないだろう」
「不安。不安ならたしかにある。ただ言葉にはできないだけで」
「それならないのと同じだ」
「誰がこんな俺を愛してくれるのだろうか。こんなに醜い俺を」
「止せよ。似合わないぜ。いいか。君が何を云ったって、世の中の人間は少しも気に留めちゃくれない。だが忘れてはいけない。それでも何人かの人たちは君を愛してくれているんだぜ」
「そんなの綺麗事さ」
「綺麗事で結構。もともと真意なんてどこにもねえ。ほら、阿桜はどうだ。なんならウイスキイもあるぞ。まずは落ち着くことだね」
「それもそうだな。一杯いただこう」
「いいね。そうこなくちゃ」
 歩いている時に道を渡る猫を見たり、割引の映画を観てあくびを催している時は、こんなことを思い出す。忘れはしない。奴の、廃屋を歩く楽しそうな表情も、酒杯を傾ける寂しそうな表情も。
「君には他に友達はいないのか」
 不意討ちの質問だった。
「いや、俺にも友達のひとりや二人はいる。だがどうしてそんなことを聞くんだ」
「人は同じ話を聞くのを嫌がる筈だが、同じ話をするのもまた嫌なものだ。なのに君ときたら、いつも、まるでこの話をするのはこれが最初であるかのように、どこか楽しそうだ。君は、他の友達に話しはしないのかい」
「こんなこと他の奴らには話せないよ。話せば嫌な顔をされる」
「そうか。いや、それは、済まなかった」
「お前が謝ることじゃない。悪いのは全部俺なんだ」
「まあ、それでもいいよ。でなきゃ俺がいる甲斐がないからな。また、話、聞かせてくれよ」
 その日から私は実生活が忙しくなった。そんな私を気遣ってかどうかは知らんが、奴もぱったりと私を訪ねなくなった。

 そして季節がまた一つ巡る頃のこと。
「仕事が決まったそうだね。おめでとう」
「いやそれはいいが、しかしお前、今まで何処に行っていた」
「君の代わりに湯宿に少々。同僚はどうだった」
「趣味は合わないが、中々気さくみたいだ」
「そりゃいい。そういや、向こうには好い人もいるんだってねえ」
「馬鹿。ただの友達だよ」
「まあ、せいぜいお世話されることだね。いやしかし、神童の里帰りか。全く誇らしいことだね。凱旋のお供はすごいキャラバンかい。それとも狂気のパレードかな」
「師匠の詞を云えばいいと思うなよ」
「軽やかに行こう必要ない歌うたい」
「そのことを云っている」
「だがまあ、しっかりとした職を有って働くというのは君の長年の悲願だったな。俺も自分のことのように嬉しいんだぜ。本当におめでとう」
「それはまあ、有難う」
「さてと。もう用事は全部済んだ。俺は忙しいんだ。そろそろ行くぜ。明日は真壁、明後日は岩国ってな」
「明後日は内子じゃなかったか」
「あれ、そうだったかな」
「まあいいさ。何処へでも行くがいい」
「ああ、君が望むなら何処へでも行ってみせるぜ。それじゃあな。達者で暮らせよ」
 奴の背中が小さくなって、いつの間にか消えていった。
 鏡だ。鏡には残された私の顔が映っている。顎髭をだらしなく蓄えさせて、このままでは仕事になりそうもない。トレードマークも度を過ぎれば汚点になる。髭をこのままにするわけにはいかない。ああ、そういえば新しい住居に入り用な物がいくらかあったはずだ。それも買いに行かなくちゃいけないのだ。昨日とはまるで違う暮らしはもう始まっている。
 そして室を出た。天象は青色。もう晴天から雨が落ちることもない。この町の空はとにかく広い。
「おや、お早う。どこに行くんだい」
「お早うございます。いや何、ちょっとそこまで・・・」
―軽やかに行こう必要ない歌うたい。
「・・・いや、何処へでも行ってみせますよ」
 君が望むなら何処へでも。

(終)

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  1. 2016/03/25(金) 19:00:00|
  2. 日記
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謝辞 (先に書く“あとがき”2)

同業者の皆さんへ

ウェンツさん
 新人ブロガーだった私を、オフ会にお誘いいただきありがとうございました。あの時、常識知らずの私にウェンツさんが注意してくれたことは、私のブロガー活動に大きな影響をもたらしてくれました。

たきい(敬称略)
 度々オフ会に誘ってくれたり、秋田に遊びに来てくれたりしてありがとう。医大生や大学生の範疇で満足しないで、今よりももっと大きな存在を目指してください。また秋田にいらっしゃい。

陸さん
 時々コメントをくれてありがとうございました。ネガティブなんだかポジティブなんだか分からない陸さんのブログは面白かったです。これからも執筆がんばってください。応援しています。

こなりかほさん
 時々コメントをくれてありがとうございました。ブログの方はフェードアウト気味のようですが、実生活での仕事や活動が忙しいことだろうと思います。これからもがんばってください。


 そして、その他たくさんの同業者の皆さんも、私のブロガー活動に刺激をくれてありがとうございました。


身近にいる読者の皆さんへ

 今までオレのブログを読んでくれてどうもありがとうございました。時々話してくれる感想は執筆の参考になりました。あと、軽々しい内輪コメントを今までしないでくれたこと、心から感謝しています。


コメントをくれた読者の皆さんへ

 私のブログは、筆者の顔がよく見えないので、コメントがしづらい雰囲気になってしまっています。それにも関わらず、時々読者の皆さんからいただくコメントは、本当に嬉しいものでした。皆さんの勇気に感謝します。



 そして、ただ一度きりでもこのブログを読んでくださった皆さん
 皆さんの存在が励みになったからこそ、私は今までの間、書き続けることができました。心からの感謝をお伝えいたします。
 私と「野良犬の生活」の3年間を支えていただき、本当にありがとうございました。



 次回、日常系赤面ブログ「野良犬の生活」は最終回になります。どうぞお楽しみに。

(シバケン-いかれたNeet-)

  1. 2016/03/24(木) 19:00:00|
  2. 日記
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旅の途中(最終莫迦列車)



  一、郡上八幡

のどかな長良川鉄道に揺られて、ちょいと郡上八幡を訪れる
長良川支流の吉田川の走る小さな町は清流の里
日本の名水第一号の宗祇水をはじめとして
町民の生活は水の流れと近いところにあるのが印象として残った
駅員さんの話す「小さな町ですから」
ですからチャリを借りてきままに走り廻るのが気持ちいい
城登りは膝に大きなダメージをくらわすが
山頂から町を望んで飲む特産のサイダーがまたたまらない経験
行き先で触れる人々の気さくさもどこか清廉に思えて
町も食も人も、澄んだ水流に育まれているようだ
鉄道よし、駅よし、町よし、食よし、人よし・・・
前から訪れたかった郡上八幡は
今まで訪れたなかで最高の場所


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  二、飛騨高山の夜

飛騨高山だ
あたりはすっかり夜の色である
本格的な観光は翌日に回すとして
この夜は軽く酒でも飲んで休もうとした
町に出てふらふらと宿り木を探せば
あるある、よさげなお店が
とあるカジュアル・バーのカウンターに落ち着く、いちばん端の席
お兄さんお姉さんと話す流れで、人気の飛騨牛煮込みをつっつきつつ
当地の地酒を幾らか試してみる(こうなりゃどこまでも酒に肥えようではないか)
「それ、何食べてるの」―隣の旦那が口をきく
「ふきのとうとベーコンのキッシュです」
「それこそ燗じゃなきゃな。このお酒は燗にするとうまいんだよ。俺が飲ませるよ。ちょっと、この人に、燗で飲ませてやって」
こんなベタなことがあってもいいのか
いやでも、貧乏学生には心から嬉しい顛末!
なんてこともあれば、旅の気分もほぐれる
軽くどころか、普段以上に酒を摂り
ホテルに戻れば文字通り、バタンキューでこの夜を閉じたのだった


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  三、犬山明治村

時代モノの建築好きの私の聖地・博物館明治村にやってきた
広大な敷地内に大小様々の建物が立つ
驚くべきはそのすべてが明治から現代まで生き永らえてきた“本物”たちだということだ
邸宅や庁舎、教会や学校
さらには写真屋、芝居小屋、風呂屋、床屋までと幅は広い
そのどれもが“本物”
そこに路面電車やSLも走るとなれば
ここはまさしく私のHEAVEN
だがしかし、じっくり見るには一日二日では足りない・・・
閉園間際、ひとり乗車の路面列車で車掌さんと鉄道談義
新潟無機終焉都市から名古屋まではどのような交通がいいのか?
一旦、長野に出るのがいいか、新幹線を使うのがいいか
最終的に私たちが導いた結論は、飛行機を使う


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  四、大井川鐡道

少し前には抒情的なSLやアプト式鉄道の旅に浸っていたというのに
その時の私は、大井川鐡道井川線接阻峡温泉駅から
一つ隣の奥大井湖上駅を目指す自然遊歩道を、えいこらと歩いていた
奥大井湖上駅とは、名の示す通りに長島ダム貯水湖の上に建つ駅である
駅の建つ半島に架かる鉄橋は、線路脇に歩道があって自由に歩けるのだという
私がわざわざ徒歩で駅に進んでいるのは、ただその歩道を歩きたいがためである
自然遊歩道とは聞いていたが、自然要素が大きく
果てに人工物たる駅があるとは思えない
一抹の不安を感じながらもひたすら信じて歩くしかない
―キュイ!
こんなところで、キュイ!とはなんだ・・・
聞き慣れない音の方向を注視すれば
ガサガサと揺れる木の枝、うごめく影、影、影
「猿だ・・・!」
猿だった、しかも、群れでいる
そうか、自分は今、本物の獣道を歩いているのだな
猿たちの姿は見失ったが
全方位を囲む木々の上から視線を落とされているようで、歩いてもなかなか気不味い
不安もいよいよ大きく膨らんできた頃
とどめと云わんばかりの階段の連続、それを登りきれば・・・
「あ。駅」


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  五、沼津

旅の合間、沼津で久しぶりの親戚と会う
沼津は私にとって幼い思い出の残る場所
記憶を辿るように町を廻り、あれこれの四方山を交わして
共通項を一つ一つと確めていく
あの頃と見かけは変わり果てていても、胸の奥に変わらず生きるものがあるのだと知った
夜は親戚のレストランでフレンチのディナーをご馳走になる
貸切のお店に、お客は私ひとりだけ
白赤ワインを香らせて、地産の食材をふんだんに使った料理を頂く
嗚呼、なんて静かで落ち着いて、愛すべき時間だろう


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  六、東京

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級友との四国旅行とつながる気楽なひとり旅も
最後の土地・東京に舞台が移っているのだから寂しいもの
ここでしたいことは、それほどない
だからふらりと寄席を覗きに行った(好きな噺家が上がるらしい)
椅子ではなく座敷に座って聴く落語もいいもので
皆々堅苦しいところなく、気持ちよく笑いも出てくる
これが毎日やっているというのだから、この町に住む人が正直羨ましい

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シルク・ドゥ・ソレイユ「TOTEM」
自然の世界というだけならこれまでにもあったが
ここに生命や人類の進化といったテーマも加わり
珍しくサイエンティフィックなショーへと仕上がっている
主題としては難しい作品かなと思っていたが
演目、演出、音楽、衣装等のどれもが世界観をよく表現していて
一貫したストーリーはないが、最後までステージに引き込まれてしまう
演目一つ一つも作り込まれていて見応えがある
特に、マニピュレーションの魅せ方が凄まじくよかった

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故郷・秋田への新幹線で、私の旅が終わろうとしている
私の旅、というのは今回のシリーズのみを指しているが
もっと、以前から続いていたものを意図してもいいような気がしてきた
大学に入り、親元を離れた私はいつの間にか旅をするようになった
色々なものをこの眼で見たくて、あるいは今とは違った場所に行きたくて
どれもが本当に楽しい旅だった
それでも、その日々のすべてを覚えているわけではない
記憶はところどころで途切れていて
まるで、いつか見た夢であるかのようにぼんやりとしている
車窓から、白い雪が未だに積もっている集落が見える
故郷はまだまだ寒そうだ
あーあ、全部終わっちゃった
私の旅も、大学生活も―
大曲で在来線に乗り換え、乗客の口からは懐かしい訛りが聞こえてきた

  1. 2016/03/23(水) 21:00:00|
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「浪漫鉄道」を聴きながら(四国瀬戸内旅行記)



  一、京都

級友との合流前、その合間で過ごすひとりの日
その地・京都でしたいことが思い浮かばず、終日無計画に廻り
某刻、新京極の映画屋に座を据えた
「秋刀魚の味」―新潟無機終焉都市で見損ねた映画
初見の眼に映ったのは、影と鏡の像がいい働きをしているということ
だがしかし、酒を飲むシインが多く、ゴクリと喉を鳴らすことしきり
案の定、宿までの帰路にそこらの店にアルコオルを求めたのだった


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  二、瀬戸大橋

おだやかなる海の文様は、日の傾きに沿って様々な姿を見せる
刻一刻と、その形なき形を変えていく
その瀬戸内の凪に大小の島々が浮かんでいた
さらに深みをますシアンの空に走る瀬戸大橋線の灯り
一様に塗られたオレンジの夕焼けに映る造船所のシルエット
私たちの島渡りの終着、間もなく坂出、香川、そう、そこはもう四国―
橋を往け、橋を往け
ひたすら真っ直ぐ、橋を往け


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  三、讃岐

「うどん県」を自認・喧伝する讃岐国、今は香川県
その実力には正に帽を脱するしかない
私たちが二十四時間内で訪ねたうどん屋は五軒
どの店のうどんも個性が違っていて多様性にまず驚く
そしていずれでも、一口目の感動は人生観が転回するかと思われるほど
御託のあれこれはほどほどに、只ひたすらにすすり食うといい
すると、雰囲気に云わされたものでなく、心からの「うまい!」が勝手に口から出てくるのだ


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  四、祖谷渓

大歩危・小歩危の奇岩を窓に見て、蛇行した山道を上っていけば
平家の隠れ集落の説も伝わる秘境・祖谷渓に至る
あ!日没が近い
怪しげな人形が見守るパーキングに車を置いて、かけ足
日本三大奇橋に数えるかずら橋が見えてきたろう
平家の落ち人伝説に由緒を発する、かずら造りの吊り橋
滅多に体感しない橋の揺れ、傾き
植物製というなんとなくの頼りなさ、歩きづらさ
極めつけが橋床の木組みの隙間から覗く、足下を走る川、岩・・・
あまりにもよく見え、落ちたら死ぬことが酷なまでに解る
感じるのは恐怖そのもの
へっぴり腰の旅人は、蔓を手放すことなく、そろりそろりと必死に歩く
ここで、とある発見
手ぶらで歩いた方が安定するじゃないか
この証明に、もう一度歩いてみたら、やっぱりそうだ!
だがしかし、安定を手に入れたからと云って、生々しい恐怖は霧散はせず
渡りきった背中は、妙な汗でジットリと湿っていた


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  五、夜土佐

高知に着いたのは夜のことで、晩酌には都合が良い
級友たちが調べていた飲んべえ市場に入った途端
ぎっしりと卓を埋め、酒に宴に興じる人々の陽気に少しくたじろいだ
「ハロー、マイフレンド!」
胡散臭いインド料理屋の席を押さえたら、各々、肴探しの小冒険に出る
カツオは当然として、地鶏にクジラ
土佐の夜でしか嗜めないものを集めれば、鼻も膨らむというもの
迷路のような市場を歩き廻りながら、同僚と、カップルで、家族で、ひとりで
それぞれのかたちで酒飲みを楽しむ人を何度も見た
その気軽さ、純粋さ、やさしさ
嗚呼、やっぱり自分も飲んべえだ
この時間が愛おしくてたまらない・・・!


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  六、松山

友人との旅行、とはいえ隙を計って己の趣味心は満たしたいもの
高松は琴電、高知は路面電車の土佐電
集団を離れたひとりになって、その地その地の鉄道に乗っていた
さて、ここ松山にも伊予鉄道―憧れの路面電車がある
当地中心部の交通は路面電車が最も便がいい
城も温泉も繁華街も、これ
平面交差の騒々しさも、街の空を幾何学的に飾る架線も
変遷する松山の地を、変わらぬ真面目さで走り抜けた路面電車が生みだした
街並みの景色一つ一つがとにかく新鮮で新鮮で
それでいてなぜかしら、こんなにも懐かしさが滲み出るのは


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  七、下灘駅旅情

松山での一日は、おはようからおやすみまでの個人行動となった
その利が落ちてきた時から、私の念頭に浮かぶもの
松山から予讃線で約一時間揺られて降り立つ
下灘駅
小高いところから伊予灘を望む、かつての「日本一海に近い駅」
思わず降りてしまう、旅人が辿りつく場所
沈み行く太陽に呼応するように瀬戸内の波や空が色を直す
歩廊に広がる景色に、一瞬と同じものはない
さあ海面に潜らんとする頃、信じられないほどに丸く、紅く燃える火の玉があった
戻りの列車、光の粒を残した凪を車窓のフレームに当てはめて、聴いた「浪漫鉄道」
久しく失いかけていた感覚に胸が熱くなる
鉄道旅行とはこんなにも楽しいものだったのか―


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  八、広島

戦争の終わった時代に生まれたことがずっとコンプレックスだった
勿論、話しを聴く限り、あの頃のような経験はしたいとは思わない
しかし、それを経た人間はそれだけで深みのあるような、気位が高いような・・・
戦争を知らない者は、人として“足りてない”かのような
まるでそんなことを言いたげな世間の風潮
それを真に受けてしまう自らの強迫のようなもの
それらはずっと私を鈍く苦しめ続けていた
だから、いつしか避けるようになった
話すことも、考えることでさえ
そんな私の目の前に、できれば見たくなかったものが立っている
広島県産業奨励館
人々は「原爆ドーム」と呼んでいる

焦げた壁面、剥き出しの鉄骨、当時そのままに周囲に散乱している瓦礫がいやに生々しい
広々と清廉な現代の平和記念公園の内で
その一画だけが一九四五年八月六日のままでいるような違和感
その差七十年のスケールの広大さに眩暈を覚えてしまう
見ていて嫌な気持ちだ、それは絶対に払拭できないだろう
だが、どこかは知らない心の片隅、確かに芽生えた気持ちがある
―自分はこのままではいけない
単純な人間と思われても構わない
でも私は、何も知らない若造だからこそ、変わりたいと思ったのだ

今でこそ世界遺産の意味合いも変わり
かすかに残っていた崇高さは廃れて
いまその有難みを噛みしめているのは、認定されたもの周辺の観光界といったところであろう
しかし、原爆ドームは真の意味で世界遺産にふさわしいと感じた
信じられないが本当に起きた人類史上最悪の事件の証拠としての意味
だからこそこの世界に遺すべきなのだ
だが、世界にはこの遺産に学ぼうとする人はそれほどいないのかも知れない
穏やかじゃないニュースを耳にするする度に、ふとそう考えてしまう
今もこの世界には様々な摩擦が存在するのだ
偏見や狭量の誹りを恐れずに云うなら、その摩擦のほとんどに、某国が関係しているような気がしている
かつて広島に、そして長崎に、もてあそぶかのように原子爆弾を落とした大国のことである
彼ら自らが生んだ遺産なのだから、そこから多くを学ぶはずだろうが
今も彼らはどこかの国に、時々爆弾を落としているらしい
朝のニュースキャスターはあっさりと、そう云う


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  九、別れ(京都2)

およそ一週間の旅行だった
それにしても一週間程度などは一瞬の夢である
寄り道しながらも、気がつけば始まりの地・京都に戻っているのであるから
一瞬の夢であるというのは、六年間のこの生活もそうかもしれなかった
振り返ればそう思うだけのことかもしれない
だが、今の私には一瞬の夢でしかないのだ
その一瞬の夢の中で、私は日陰者なりには、たくさんの人たちと交流をしたと思っている
その人々との意思の受信送信を経て
もしかすると自分は、どこか変わっている人間であるのかもしれないという思いを得るに至った
少なくとも一般的ではないのだろう(あくまで客観的に、だが)
私の普通は彼らの異常、私の異常は彼らの普通
振り返れば、その事実をひたすらに突きつけられ続ける毎日だった気がする
辛くはないが、ただなんとなく寂しかった
だが、困っていたのは私だけではなくて、チェス盤をひっくり返して考えてみると
私の異常な行動・言動には、彼らの方でも困っていたのではないか
それでも私を突き放さずにいて、時に遊びなどしてくれた彼らには感謝を思うしかない
これから彼らと何度会うことが出来るのだろうか
もしかするともう二度と会うことはないのかもしれない
だがそれでもこの関係は、一瞬の夢となってはほしくない

  1. 2016/03/22(火) 21:00:00|
  2. 旅行記
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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

日常系赤面ブログ「野良犬の生活」を応援していただきありがとうございました

「野良犬の生活」の物語

 はじめましての皆さんへ

長い間ありがとうございました

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