野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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可哀想な猿

 いつだか、新潟市に私を訪ねていた両親が近くの白山神社を見物しに行った際、母親が私のアパートに着くなり述べた感想は、神社の縁や由緒とはなんら関係のない、「猿が可哀想だった。」という、ただそれだけのものであった。
 当時の私は、せっかく新潟市を生活の拠点としながらも、あの有名な白山神社にすら行ったこともない体たらくだったので、突然に白山神社が何々と言われても、その外観を頭の中でイメージすることもできない上、敷地内で猿が飼われていることもその日が初耳であった。然るに、母親の意見には全くの感情移入ができなかった。しかし、「猿が可哀想。」という発言、そしてそれから思い浮かんだ「可哀想な猿」という聞き慣れない奇妙な言葉に、ふと自分の気が魅かれるのを覚えたが、それぎりで酒を飲んで眠って明くる朝になってみると、猿への興味はすっかり忘れられていた。
 
 その後の私は、引きこもりの退屈から、目的もなしにぶらぶらと散歩をすることが多くなるのだが、車通りの激しい道や、好みの店のない商店街を除いていくと、次第に私向きの散歩は近くの神社行きに限られていく。その伝によって、私はついに白山神社を訪問することになった。
 いつの年のことかは憶えていないが、確か春先ではあった筈である。この神社は蓮池でも高名で、まだシーズンではないがいずれはと思い、その下見も兼ねてひとり歩いていたのだが、ふといつぞやの母親の言葉を思い出し、猿探しの目的を加えたのだった。しかし、猿の飼われている小屋は探し回る必要なく案外すんなりと見つかり、私は何の感慨もなく、例の「可哀想な猿」との初対面を果たしたのだった。
 網目張の小屋は思ったよりも広く、アクティビティ用に設置された木の棒などの遊具も簡素なものだったので、内部は開放的な印象であった。だが肝心の猿は、その広い小屋の端っこのところで、一団に固まってひたすらにじっとしていた。何も楽しくなさそうな表情で、動こうともしない。私が近くに寄っても見向きもせず、小屋内にすずめが侵入してエサの残骸をついばんでいるところで、まるで興味を示さない。猿は二匹いた。
 明らかに年老いている。子供の頃に連れてってもらった動物園の猿山で見た、あの活発な猿と比べると、顔つきや諸々の様子から、彼らはすでに老齢であることが初対面の私にも分かった。
 私は一応の礼儀から、やあと挨拶をしてみたが、向こうからの挨拶は返ってこないので、少し気不味くて、小屋の中の観察をし始めたが、よく見ると内にねずみ捕りがあった。小屋の正面からねずみ捕りのある側面に移動して足元を見てみると、成程小さい鼠が数匹ちょこまかしている。ねずみは罠に近付きはするが決して捕まりはしない。実際ねずみ捕りには一匹のねずみもかかっていないのだ。彼らはまるでこの装置が何であるのかを分かっているようで、以前読んだSF本の「ねずみは地上で最も賢い生物」という内容も思い出し、少し愉快になった。不潔でさえなければこいつらはかわいいのにとひとりごちていたら、いつのまにか鳩が大勢やってきており、私を取り(鳥)囲んでいた。鳩は全く気味が悪い。鳩に水を差された形で、私のねずみ観察という悪趣味と、そもそもの目的の猿との無言の対話はその日はそこで終いとなった。
 その日から、私は白山神社に散歩をする度に猿小屋に寄り、猿にやあと挨拶をするのが習慣となっていった。しかし、猿はいつものように隅の方でじっとしているか、時には二匹で仲睦まじく毛繕いをしており、私のことは全くの無視であることが常であった。二匹の、日に当たって毛繕いをしている様に、人の老夫婦のひっそりとした世捨ての隠居生活めいたものを感じ、それがまた一方で微笑ましくもあり、私の胸を打つのだった。また、人やすずめに見向きもせずに小屋の中を世間として暮らしている彼らの姿は、社会や関係から解放されているように見えて、蒸発願望は持ってはいないが、ここにおいては一種の憧れすら感じてしまうのである。

 先日のことだが、この小屋の中の隔離部屋で静かに療養していたもう一匹の猿が、老衰のために死んでしまったという知らせが私の耳に入った。享年を見ると、私よりも僅かに年長であった。この猿は私が白山神社に通う前にはすでに部屋の中で暮らしていたので、私は一度も対面することはなかったのだが、このニュースはむしろ私に親しみ深い二匹の猿について影を落した。調べてみると、この猿達は同時期にここにやってきていて、おそらく年齢も近いみたいである。既に老齢のことに加えて、小屋の決して快適とは言えない飼育環境もあり、健在の二匹のうち、どちらかが老衰やら病気やらで後を追うのも時間の問題に思えてきてしまう。飼育環境を除けば、私は猿の生活に対し、いつかの母親のような「可哀想。」という感想はあまり抱いてはいなかったのだが、いずれ一方が召されて、二匹が一匹になった時には、あの毛繕いの光景を思い浮かべてみると、本当に「可哀想な猿」になってしまうのではないかと、ひとりで気に病んでいる。










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  1. 2014/01/26(日) 12:44:44|
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コメント

 ▶以前読んだSF本の「ねずみは地上で最も賢い生物」という内容も思い出し、

 その小説、結構ファンなので言及されていて嬉しかったです。テンションがあがってしましました。個人的に面白さと知名度がきちんと反映されていない気がずっとしていたので。
 
  1. URL |
  2. 2014/01/27(月) 15:07:02 |
  3. ぐう #-
  4. [ 編集 ]

Re:

ぐうさん

そうです、あの銀河でヒッチハイクするシリーズです。
・・・そうですよね?

ですが、実は私は一作目しか読んでいないので、まだレストランにも辿りついていません・・・。
でも第一巻がとても面白かったので、これからシリーズを読み進めていきたいと思ってます。
  1. URL |
  2. 2014/01/27(月) 16:58:15 |
  3. それ行け!Shibaken #-
  4. [ 編集 ]

巻を追ううちに、いきなりラブコメ展開になったり陰鬱になったりとなかなか面白いですよ( ・∇・)
はい、ヒッチハイクするやつです
  1. URL |
  2. 2014/01/27(月) 22:43:51 |
  3. ぐう #-
  4. [ 編集 ]

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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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