野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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オタクの末路

 大学三年の春休みのことである。私は長期休暇を利用して田舎に帰っていたが、そんなある日家族に連れられて宮城の石巻に出かけた。二年前の大震災以後、長きにわたって閉館していた石ノ森萬画館がこの日にリニューアルオープンを迎え、それを記念したイベントも催されるということで、これを目当てに出かけたのだ。
 覚えている限りでは、私が初めて読んだ萬画は石ノ森章太郎先生の「サイボーグ009」ということになる。親が持っていたのか、なぜか家にあった単行本を幼い私は夢中になって読んでいた(武器がたくさんあるハインリヒが好きでした)。田舎町からほど近い増田町(現横手市増田)のまんが美術館で石ノ森先生のサイン会が開かれたときも、子供の私は連れてってもらい、サインと、特別にその場で島村ジョーを描いてもらった。その頃の私は、ジョーじゃなくてハインリヒを描いてほしかったと、実に贅沢なことを考えていたが、今では、立派な額に装丁された直筆サインと幼い私のためだけに描かれたジョーのイラストは私の宝物となっている。そういった経緯もあって、石ノ森萬画館に行くというのは、私の念願の一つでもあった。
 待望のリニューアルに目玉のイベントも重なり、萬画館はたいへんに盛況であった。仮面ライダーに夢中の子供たちもたくさんいて、それはもうわいわいと賑やかである。私も初めて目にする展示を熱心に見て回ったが、突然、館内の雰囲気が妙になっていくのに気づいた。耳をすましてみると、かすかに人が怒鳴っている声が聞こえてきた。何が起きたのか気になったので、怒鳴り声のする方へ向かってみると、展示スペースの一画で、いかにもな服装でこれまたいかにもな大きなリュックサックを背負った中年男性がひとりで声を荒げていた。「なんというか・・・典型的だな」と思い呆れながらも、何が起きたのか、事の真相が知りたかったのでしばらく騒動を観察してみた。
 ギャラリーの談や本人の声から察すると次第は以下のようである。代表作にあやかって「009」コスチュームを着ている萬画館の案内のお姉さん(これがまた美人揃いで・・・おっとよだれが)に、突然男性がいちゃもんをつけてきた。内容は「お前らそんな格好(コスプレ)してるけど、(石ノ森先生の)マンガ全部読んだのか。(壁に描かれているイラストを指して)キャラクターの名前全部言えるのか。」というもの。そんなことを言われたお姉さん(美人)は他の客もいるので、とりあえず男性をなだめようとするが、何をやっても火に油を注ぐかたちになり、そのまま現在に至るというのだ。男性にはもう何を言っても無駄ならしく、勇気ある他のお客さん(子連れの母親)が「子供もいますから・・・。」と常識的な注意をしても、怒りを収めず、しまいにはそのお客さんにも当たり散らす始末。曰く「なんだよ正義ぶって!」
 しばらく観察をしておいてなんだが、こんなに哀しい光景は見たくなかった。震災以後たくさんの人が楽しみにしていたリニューアルの日に、こんなことをしなくてもいいじゃないか。大人である私が見ても嫌な気持ちになったのに、その場に大勢集まった子供たちはどう思っただろう。話の内容は分からなくても、子供は大人が発する怒りに敏感なんだからな。それになにより、いい年した中年の男性がこんな情けない姿を見せているというのが、私にはいちばん哀しかった。
 だがおそらくこの中年男性は、相当に石ノ森先生の作品が好きなんだと思う。リアルタイムで萬画を読んで胸を熱くした世代だろうし、作品に親しんできた時間も他の人とは比べ物にないくらいに長かったのだろう。その時間の利から、「オタク」の称号を贈ってもいいくらいの知識を蓄えているのだろう。そして何よりも男性は、作品をずっと愛してきた自分に誇りのようなものも抱いている、少なくとも私にはそう見えた。
 そんな彼には、「にわか」というべき、ぽっと出のライトなファンが許せないのだと思う。平成の時代しか知らずにはしゃぐだけの子供たちや、作品の神髄をまだ理解しないであろう若い館内スタッフのコスプレを、心のどこかで軽蔑していたに違いない。膨大な知識をもって久しい男性の考えでは、「すべて」を手に入れなければファンになっちゃいけない、語るのも許されない、つまりはそういうことだろう。こんな極論の持ち主だけが、人目もはばからずに怒声を放つことができるのだから。そうなると、石ノ森先生の作品でも「009」「仮面ライダーシリーズ」「キカイダー」「がんばれロボコン」くらいしか解さない私も、彼の中では立派な「にわか」に認定されてしまうに違いない。「009」に特別な思い入れがあるのだが、それが「すべて」ではないから、私には石ノ森作品を語る資格はない、彼の中ではそういうことになるだろう。
 中年男性が作品を愛していることはよくわかった。だがこの騒動を眺めていた私は、彼はとても大切なことを忘れてしまっているんじゃないかなと思った。それは先生が萬画を通して教えてくれた人間の愛や勇気や正義の心、娯楽としての萬画の楽しさ、そして彼自身が先生の萬画を読んだときに抱いた熱い気持ちである。先生は私たち読者を楽しませてくれようと萬画を描き続けてきたのであり、その多くの作品は、知識量をひけらかして大威張りするための手段には決してならないはずだ。それに自分の考えを他の人にも強要させるのは正義でも勇気でもない。何より、人のいうことに聞く耳もたず、怒鳴り散らしている男性の姿は、「黒い幽霊(ブラックゴースト)団」が送りこむ怪物が暴れている様にそっくりであった。彼が作品に親しんできた時間、そして彼が抱いていた誇りは、彼の作品に対する愛を、知らず知らずのうちに“その作品を愛する自分自身への愛”に変えてしまったのではなかろうか。こうなってしまうと、自分の極論こそをすべてとし、他の人のやり方や意見を認める余地のない心を持った“狂人”ができあがるのだ。私はこれを「オタクの末路」と呼んでいる。
 いろんな方面に関して、「オタク」と呼ばれて久しい私である。「にわか」を嫌う男性の気持ちもほんの少しは分かるだけに、「人間、極論を持っちゃ終わりだよな・・・。」と、この日の騒動を反面教師として心に留めていこうと誓った。


009.jpg
↑サイボーグ戦士 誰(た)がために戦う









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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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