野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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鉛温泉投宿記

 暑中休暇に岩手を旅行した際、花巻に一泊をする日程になったのだが、せっかくの機会だから、花巻温泉郷を代表する名湯・鉛温泉は藤三(ふじさん)旅館に宿をとった。藤三旅館は六百年の歴史を有つ秘湯で、花巻ゆかりの作家・宮沢賢治の「なめとこ山の熊」や、田宮虎彦の「鉛心中」に描かれていたりと、文人にも愛されている宿である。私もとある方面からこの宿を知ったのだが、写真から漂う懐古的な趣に当てられ、以来気にかかっていたのだ。またこの宿は今の時代にも、古式ゆかしい湯治部が残されている。サービス面や建物の新しさでは旅館部にはちと劣るが、その点で宿代が安く抑えられるのと、その風情から長期的なフアンもいるという評判を聞きつけ、貧乏で浪漫癖の私にぴったりと、当然今回も湯治部での宿泊を決めていた。
 鉛温泉をはじめ、花巻温泉郷の各旅館までは、花巻駅や新花巻駅から乗合の無料シャトルバスが出るので、利便性から私も新花巻でこれに乗りこんで宿を目指す。シニアのグループやカップルなど、バスの乗客の層は様々である。藤三旅館には基本混浴の浴場があることを知っていたため、若い女性の二人組みやギャルのトリオが乗ってきた時には、哀しいかな、ドキドキと妄想が逞しくなってしまったが、いずれの組も先に他のデカくてキレイな旅館で降車してしまった。畜生。他の温泉では宿の真ン前までバスが入っていくが、鉛温泉の場合だと、一度鉛温泉バス停で降り、そこからは旅館のマイクロバスに乗り換えて宿に向かう。このマイクロバスが中々の年代モノと見受けられ、ちょくちょくエンストしたり、空調が完全にイカれていたりする。八月の三十度の日に足元から熱風が吹いてくる苦しみを知っているだろうか。この時点で大変なトコロに来てしまったなと心細く感じた。旅館部湯治部は別の建て物入口なので、宿泊客も分けて降ろされる。旅館部の入り口はまさしく伝統的な温泉宿といった感じで絵になる面構えだったが、湯治部は施設的な顔が強く、一見温泉宿のようには思えない表情。先程(旅館部)では若いカップルなどが降りたが、ここ湯治部に降り立ったのは、私、ガイジン二人と、オーガニックな女性一人と、明らかに物好きばかりが残ってしまった印象。
 昔ながらの湯治場。宿に入った瞬間に、在りし日にタイムスリップしたような、時代錯誤的な奇妙な感覚が迫ってくる。長年の伝承を察せられる内装、小さな売店、壁に大きく掲げられた「湯治の方法」と温泉の効能。そしてフロントデスクではなく、そこにあるのは帳場。こうした湯治場の仕組が現代も生きているということ自体が一つの感動であった。帳場で、帳簿への記名や説明も程々に、部屋に案内されるが、やはりと言うべきか、部屋にエアコンの類はなく、代わりに用意されているのは扇風機。暑い。窓には網戸が取り付けられているが、YKK AP的な窓ではなく、ある程度のサイズの虫だったら容易に侵入できそうである。またさらに詳細を観察してみると、そもそも窓を閉め切ったとしても、建てつけのせいか必ず隙間が生まれてしまい、ある程度のサイズ以上の虫でもたやすく侵入できる構造となっている。実際、部屋には既に大きめの蛾の死骸が落ちているのだ。現代っ子の私には大変な一夜になりそうな予感がしたが、中学高校の部活動で色んな宿に泊まってきた経験が活き、状況の割りにそれほどうろたえることはなかった。とりあえず浴衣に着替える。なんか湿ってる・・・・。やっぱりダメかもしれない。
 夕食の時間まで少し空きがあったので、早速、この旅館の名物、日本屈指の奇湯・白猿(しろざる)の湯に浸かりに行く。白猿の湯、これこそが先述した混浴の風呂で、私がこの宿に来た最大の目的である。いや、混浴が目当てだったワケじゃないからね。
 白猿の湯の由緒を、旅館の案内から引用すると、

『今を去ること、およそ六百年の昔。
 ここの温泉主である藤井家の遠祖が高倉山麓で木こりをしている際に、
 岩窟から出てきた一匹の白猿が、
 桂の木の根元から湧き出る泉で手足の傷を癒しているのをみた。
 これが温泉の湧出であることを知り、
 一族が天然風呂として用いるようになったとされる。
 以来「白猿の湯」(俗名桂の湯)と呼ばれるようになった。』

だってさ。
 湯に続く引き戸を開けるのにはいささか緊張した。戸を開けた瞬間、なんだこれはと目の前の不思議な景色に驚いた。浴室は二階構造になっていて、石造りの階段を下りると簡単な脱衣所と名物の広く深い湯船が掘られている。も白いことに、この浴場は対称的になっていて、二つの階段と脱衣所が対角線上に位置している。ふと上を見上げてみると、今度は三階までに達する高い吹き抜けが。全く奇妙な温泉である。軽く湯を身にかけ、湯船に入る。湯船の深さはおよそ百二十五メートル。日本一深い自噴天然岩風呂で、世にも珍しい立って入る温泉なのだ。立ち湯は循環的に全身にまんべんなく効能があるとか。たしかに数分浸かってみただけで、船から上がっても身体は温かく汗もじわっと出続ける。この名物湯には翌朝も含め数回浸かりに行ったが、度々一人占め機会を得ることになった。この異世界異時間的な温泉に浸かり、高い天井を眺めていると、どうも現実味がなく、創作の世界にうっかり入りこんでしまったような錯覚を覚える。ちなみにこの白猿の湯は基本的には男女混浴ということになっているが、女性専用時間帯なるものが設けられており、おそらく女性客はこの間に湯に浸かっていたのだろう。また、二階部分にはガラスでぼかされて窓が張られ、廊下に面しているのだが、これが結構薄くなっているため、そこを歩く人の声や足音、さらにはモザイク状の影まで見えるので、風呂に入っていると、多少ドキドキする。
 夕食に岩手牛のすき焼きに舌鼓を打ち、自室に戻ってしばらく日中の振り返りをした後に、別の湯に向かいがてら、旅館の探検に出かける。湯治部の風情というのが評判だったが、その評価に違わず廊下をちょっと歩くだけで容易にタイムスリップ体験をすることになる。日が落ちるとなおのことである。帳場や売店、炊事場など、湯治部らしい設備を目にしながら過ごす時間一秒一秒が、私の旅心を満たすものであった。
 桂の湯という温泉に入る。これは現在一般の温泉施設と同じく男女別で、脱衣洗面所やシャワーも設置されている。それでいて二十四時間利用できるため、大変に重宝である。傍の白猿の湯に浸かってすぐ桂の湯に入るというルーチンが気がつくと完成していた。この桂の湯には内湯と露天があるのだが、後者の露天が、旅館のすぐ脇を走る豊沢川の流れに近接しているので、それを間近に眺めながら湯に浸かるという風流を味わうことができる。不気味で物騒な夜の川もよかったが、朝風呂でも清廉な空気の助けもあり、大層気持ちがよかった。しかし、いかんせん虫が多いので食われないように注意されたし。私も内ももを食われた。
 はじめこそ大変なトコロに来てしまったとか、エアコンがないこのや虫害を困難に思っていたが、時間が経つにつれ、次第に旅館に空気に馴染んできて、さて次は何をしてやろうかと、藤三旅館での暮らしを楽しみになってくる。宿の人たちも親切で親しみがある。旅館のもう一つの名物と名高い売店のおばちゃんもやさしくて、帰りのシャトルバスを待ってる間、いろいろと話をしてくれた(そもそもが話好きな人らしいが)。完全の快適さこそないが、湯治部には温泉の本当の面白みというべきものがあったと思う。しかし、虫害には最後まで悩まされ、今度の機会は旅館部に・・・・と思ってしまうあたり、私はやっぱり現代っ子なのかもしれない。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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