野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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俺版遠野物語

 「遠野物語」といえば、日本民俗学の大家である柳田国男の代表的作品で、岩手県遠野地方に語り継がれる民話を集めたものである。遠野は今も数多くの昔話が伝えられていることで有名で、この時代にもその民話や伝説にまつわる場所が点在している。昔ながらの神秘や不思議が今も息づいている遠野の町。先の暑中休暇に遠野を訪れる機会があり、一泊の予定で見て回った。
 遠野の駅に降り立ったのは正午過ぎ。その日に走っていたSLがちょうど停車していたためか、駅は思ったよりも人で賑わっている。遠野は観光が主要な産業らしい。駅の真ん前には遠野市観光協会の大きく新しい建物がある。遠野には日本の原風景が残っているとはよく聞くが、何もあらゆる場所が牧歌的だというわけではないらしい。観光立町には、こういうゲンキンさが必須であろう。
 今回私は観光協会が管理するレンタサイクルを利用して巡ることに決めていた。レンタサイクルはよく旅先で利用することが多いのだが、協会の公式サイトや観光ガイドで予め遠野のことを調べてみると、他の町よりもレンタサイクルを推している様子であり、それを見て私の中に、遠野に来たからには自転車に乗らなきゃ!という強迫観念が湧いていたのだ。たとえ、この日が八月の直日厳しい三十度の一日だったとしても、だ。私は姨捨伝説のデンデラ野の方まで行こうかなと思っていたのだが、レンタサイクルの窓口の人にどこまで行くかを尋ねられてそのように答えると、見るからに窓口の人は顔を曇らせ「結構行きますねぇ・・・・。」と、人が今まさに出発する前だというのになんとも幸先の悪いことを言う。
 実際、自転車の旅はどうだったかと言うと、正直死ぬかと思った。自転車で走るのは気軽だし、風を切る感覚は大層気持ちがよく、旅をしている実感で満たされる。だが、レンタサイクルを推していた割に、路面が悪かったり道が狭かったりで、自転車が安全に走れる状況ではない。ちょうど曲がり角のところに、なぜか砂利を、かなり深く敷き詰められているところがあり、見事に自転車のタイヤをとられて、転んでしまった。二十三歳の貴重な経験、チャリに乗って転ぶ。九年ぶり七度目。この間に、愛用のメガネケースが大破し、膝からは血が滲み出ることになった。ただでさえ夏の暑い日で汗も流れるというのに、こうも出血してしまっては、全く脱水の危険が危なかった。こんなことがあって本当に泣きそうな気持ちで、汗だくになって、何度も車に追い越され、また絶妙な坂道にも何度もめげそうになり(実際何度か引き返そうか悩んだ)、脚がバンビに(つまりガクガクブルブルに)なりながらも、なんとか奥地のゴールに辿りつけた感じなのだ。また、レンタサイクルでは地図を片手に走ることになるのだが、地図があっても周りは田舎の農村地域である。目立つランドマークになるようなものがなくて、結構迷ってしまう。一応サイクリングコースの案内標識も立てられているのだが、これ写真で見るよりも小さくて、見づらいからな。
 さて、第一に私が訪れたのは、遠野に来たからには欠かせない、カッパ淵だ。小さい頃に一度来たことがある。遠野ではいたるところにカッパのモチーフが見られる。確かに「遠野物語」にあるように、カッパの伝承もあるのだが、天狗だの狐だの、他にもいろいろな伝説がある中で、なぜこうもカッパが推されるのかと言うと、単にカッパはキャッチーさがあるからであろう。個人的には、狐の物語の方がカッパよりも現実味があって恐ろしく思っている。さて、自転車で訪れたら、風情のない駐車場を介することなく、まるで童話に出てきそうな農道から淵に入ることができる。これはレンタサイクルを利用した者のみが得られる体験である。淵は日陰となっており、驚くほどに涼しく、安らげる。いつまでもこの小川のほとりで佇んでいたくなる。傍らには、例の観光協会でカッパ捕獲証を購入した者のみが使えるカッパ釣り用の竿が置いてあるが、誰かが管理してるわけでもなし、自由に持ち出して記念写真に使えるようになっている。ていうかカッパ釣りってなんだ。また、タイミングが合えばカッパ釣り名人に会うことができるらしいのだが、私が訪れた時には残念ながら不在であった。カッパ釣りとは何かを尋ねてみたかったのだが。名人はいなかったが、淵には名人専用の竿(これは触ってはいけない)があり、糸が垂らされてある。この竿の「二代目名人」という表記が悲しい。ていうかカッパ釣り名人ってなんだ。そういう色モノの演出を抜きに考えても、このカッパ淵はあまり見ることのできない不思議な景色があって、いいスポットだと思う。ほとりのカッパを祀る祠や、すぐそばの常堅寺のカッパ狛犬も必見である。またこれは完全に余談であるが、カッパ淵の裏側の入り口(私が入ってきたところ)の近くに、かなり変なオブジェが多数置かれた薄気味の悪い場所があり、なんだかんだ言っても、これが一番印象深かった出来事かもしれない。
 先述したとおり、私はデンデラ野にまで行った。地図上や実測ではそれほど距離はないように思えるのだが、上り坂があって膝が蝕まれたことや、気候上の困難から、心理的には相当遠く思えた。デンデラ野というのは、いわゆる姨捨伝説の舞台であり、このあたりの集落の60歳を過ぎた(いや、60歳は若いだろ)老婆たちは、ここに小屋を建てて自炊して暮らしていたのだそうだ。とはいえ、ずっとここにこもっているわけではなく、昼間は里に降りて普通に農作業の手伝いをして、夕暮れになると山小屋に帰っていくのだそうだ。結局働かせるんなら家にいさせてあげなよぅ!現在のデンデラ野には、この小屋を再現したものが建てられている。里の曲がり家などと比べると、なんとも簡素で狭苦しい造りだが、説明を読む限りだと、同年代の婆さんたちが集まって暮らすって、結構楽しかったんじゃないの?と思えて仕方がない。そんな感じの映画もあったはずである。坂を上った先にあるデンデラ野。ここからは一面の田んぼと、その後ろに佇む山々を望むことができ、何とも遠いところに来てしまった感覚を覚える。
 他にも狐の関所や、山口集落の水車を巡り、伝承園のレストランでソフトクリームを食べたりして、程よい時間となったので、駅に戻り、今度は夕食を求めに行くことにした。遠野はジンギスカンが名物という話であり、私の頭の中もカッパ淵のあたりから、ジンギスカンのことしか考えてなかった。再び観光協会で涼みながら店を調べてみると、行こうと考えていた駅に近い店が定休日であることを知り、困った。仕方がないので、少し距離はあるが、遠野ジンギスカンの元祖と呼ばれる店に足を運ぶことにした。道中は、観光産業とは関連の薄そうな住宅街である。旅先の住宅街というのは、自分がその町の風景に溶け込むような体験ができて、清々しく思える。この店は精肉店と一つになっていて、何となく信用ができる。私はその精肉店側の入り口から入ってしまったのだが、よくよく見てみると、ちゃんと食堂の入口も作られてあった。恥ずかしい。ジンギスカン定食と瓶ビールを注文する。日中汗だくになって自転車を漕いで回ったのだから、その後に飲むビールはおいしいに決まっているのだ。おいしいは嬉しい、だ。テーブルに備えられているガスコンロでジンギスカン鍋を温めて、自分で肉を焼いて食べる。定食なので、ご飯やみそ汁などもついてくる。この地域の食堂らしいシンプルさが逆に風情を誘う。肉を焼いて食べる。たったこれだけのことで、人は幸いになれるということを知った。決して急がず、決して騒がず、自分の好きなように肉を食べビールを飲む。これは完全に、理想的な旅の食卓であった。帰り道に早瀬川の土手の上を歩いて帰る。日が落ちはじめ、あたりもだいぶ涼しくなった。私は旅をしているのだ、と思う。これほどまでに満たされる散歩があっただろうか。
 宿泊はとある民宿をとった。実は正午過ぎに遠野に着いた時点で荷物を置きに寄っていた。私が戻ってくる時間に合わせてクーラーをつけてくれていて、とても嬉しかった。それでいて変につきまとうこともなく、私は十分に身体を休めることができた。遠野で民宿と言ったら、今度は座敷わらしを連想してしまうが、特に何もなく、夜はぐっすりと寝た。明朝、私は朝の早い時間に宿を出る。その際、宿のお父さんから餞別として、ペットボトルのお茶を頂いた。たったこれだけのことで、人は幸いになれるということを知った。道にネコが佇んでいる。『なんかいろいろあったけど、遠野、全然悪くないな。』と思いながら、私は駅に向かった。今日はこれからSLに乗るのだ。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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