野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

金沢鈍行旅日記・一日目(三)

 長町の江戸気分をバスで抜け出し、多くの人で賑わう武蔵町で降りる。長町の休憩館で会った観光ガイドのお母さんが面白いから行った方がいいと強く薦められたのは、近江町市場であったが、この時すでに日が暮れようとしている。基本的に市場というものは、早くの内に閉まってしまうものだが、これは金沢市民の台所でも例外でなく、私が訪れた頃には、市場のお店はすべからく店じまいを始めていた。お母さんェ・・・・。だが、市場内や二階部分には飲食店がいくつかあって、それらは割と遅くまで営業をしているようだったので、この日の夕食の目星をつけるべく、しばらくぶらぶらしていた。やはり金沢に来たからには、海鮮を楽しみたいものだ。活気のある市場の様子はまた明日にでも見にこようと思った。
 だんだんと日が落ちている。武蔵ヶ辻から百万石通りを尾張町へと歩く。尾張町には歴史ある建物や老舗の商店が多数並び、時間帯の利もあって、レトロな風情を醸している。金沢の地理を知っている人なら、この歩行ルートから次の目的地が分かると思うが、私は日暮れのひがし茶屋街に向かっていたのだ。金沢三茶屋街でも特に人気のひがし茶屋街は、武家屋敷通りと並んで金沢を代表する景色となっている。こういう艶やかなところは夕暮れの頃に訪れるべきだろうと思い、この時間まで楽しみに取っておいたのだ。
 しかし、日は落ち始めているとはいえ、まだまだ灯りが映えるにはわずかに早い時間だったため、ひがしに至る途中で、いろいろと立ち寄ってみることに。大通りを橋場交差点に達する途中で左に行くと、久保市乙剣宮(くぼいちおとつるぎぐう)に当たる。これ自体は何の変哲もない神社であるが、境内を少し奥の方へ進んでいくと細い階段があって、下りて行くとそこは主計町であり、金沢三茶屋街のひとつ、主計町茶屋街の細い裏路地に入るのである。茶屋の裏ということだが、表とはまた違った雰囲気があり、むしろこちらの方が異世界に迷い込んだような感覚が強い。先ほどの乙剣宮の階段と家屋を挟むようにある階段は、暗がり坂と呼ばれ、尾張町の男たちが茶屋街に向かう時の抜け道であるらしく、そのせいか少しアヤしい雰囲気である。主計町茶屋街は他の二茶屋街のように街中にあるのではなく、浅野川沿いに並んでいるために、水辺の艶やかさと、開放感がある。貧乏学生の私には縁のないお店ばかりが軒を連ねているだろうが、街を歩きながら店の中を覗いてみると、家族らしい一団が食事をしているのが見えた。金沢の人はハレの日にはこういうところで食事をするのだろうか。あるいは裕福な観光客ということだろうか。
 金沢を流れる二つの川のうち、浅野川は水流の穏やかな様子から“女川”と呼ばれるらしい。“男川”犀川よりも少しばかり母性的なのか、川沿いは住民たちの恰好の散歩道になっているみたいだった(犀川沿いにも歩道はあるが歩いている人はあまり見かけなかった)。主計町茶屋街から大通りを越えてまっすぐ、浅野川大橋から梅ノ橋方向へ川沿いに伸びる道は、“鏡花のみち”と呼ばれている。“鏡花”というのは、幼少時代を金沢で過ごした文豪・泉鏡花のことである。近くには泉鏡花記念館という施設もある。この泉鏡花と徳田秋聲、室生犀星は金沢三文豪と呼ばれていて、金沢市内、特に犀、浅野二つの川のほとりにはゆかりの地や記念館が建てられている。金沢は文学の町でもあったのだ。ところで、「文学」というと、何やらそれを本業としている人たちだけが使える言葉のように聞こえるが、私は、どんな人であれ、その人それぞれの「文学」があるのではないかと考えていて(「文学」の素養が少しもなさそうなヒトもよく見かけるが・・・・)、その「文学」には「散歩」が欠かせないと思っている。特に川沿いの散歩は最高だ。結局何が言いたいのか。
 “鏡花のみち”は階段を下りて、川のすぐそばギリギリを歩けるようになっている。地元の中学生男子らしきやつらが、自転車―普通のチャリ―を担ぎながら階段を上ってきて驚いた。私は、趣味は散歩としているし、川沿いはとりわけ好きである。この“鏡花のみち”では金沢の夏の夕暮れと、浅野川の優雅な流れを心ゆくまで静かに楽しむことができた。川の向こうでは、住民か旅行者か、幾人か川へ下りる大階段や土手に座っている。川に入って遊んでいる中高生の姿も見えた。木で作られた梅ノ橋まで来たが、橋の袂には、鏡花の「義血侠血」に登場する水芸役者・滝の白糸の像があり、スイッチを押すと滝の白糸の持つ扇子から水がちょろちょろと貧弱に出てくる。私のそばを歩いていた観光客夫婦がクスリと笑って過ぎていった。私も思わず苦笑い。梅ノ橋を渡り、川の対岸へ行く。こちらは広々とした土手の道である。公園のようになっている。しばらく石に腰かけてボーっと川を眺めていたが、こういう旅のひとときは悪くない。この辺りは住民たちの犬の散歩コースであると見えて、犬を連れた人が続々集まってコミュニティを作っている。犬の目を見ていると、犬が寄ってくる。ひがし茶屋街を訪ねた後に、このルートを逆に辿って戻ったのだが、その時に見た夕焼けの美しさは忘れないだろう。この瞬間に、私は『今日は美しい一日だった。』と、その一日が終わる前に思ったのだった。
 この遠回りの散歩によって、浅野川大橋を渡らずして、大橋の向こう側に至った。大通りを橋から離れるように進んですぐに右の路地に入ってなんやかんやで、ひがし茶屋街に辿りついた。長町の武家屋敷通りと同様に、茶屋街まで案内する看板などは見つからない。周囲は暗がりで包まれつつある時間であることもあって、本当に現実味のない景色が待っていた。にしや主計町のと大きく違うのは、茶屋街が一本道で終わらず、迷路のように入り組んでいるところだろう。通りがどこまでも続いているような気がして、ここから抜け出せないような気がして、ひそかに胸が高鳴るのだ。通りをグルグル回りながら(迷ったわけじゃないから)、ネコを見つけた。公衆便所の脇に植えられた薮の中にいた。すると、近くに第一のネコよりも小さい、子ネコも見つけた。また、そばにあった広場には黒ネコが二匹、こちらの方を見ている。なんだここは。天国か。面白くてネコを追い回してたら(ひとりで何してんだか・・・・)、気がつけば、周囲にネコが集まってきているようだった。ネコは好きだが、ここまでくると不気味というか、何か物々しくなってくるが、通りのとある家から出てきたお母さんがネコを呼ぶと、そのネコたちはぞろぞろとお母さんの足元に寄って行ったり、はたまた家のほうに歩いていく。なんだこれは。こんな現実味のない場所で、こんな現実味のない光景を見せられたら、もう本当にわけが分からなくなる。観光客もいないし、不思議な光景も見れるし、雰囲気もエロティックになるしで、夕方にひがし茶屋街を訪れたのは大正解だった。気をつけるべきは、ここも普通に自動車が走るので、夢の中をポーっと歩くようでは危ない。
 さて、美しい一日の締めくくりに、お待ちかねの夕食の時間である。先ほど目星をつけておいた近江町市場内の食堂(居酒屋)に入る。カウンター席と座敷席があるだけの、昔ながらの食堂(居酒屋)といった感じ。私好みどストライクである。基本的に私は旅費を抑えたい向きなのだが、せっかくここまできたのだからと、奮発した食事にしようと最初から決めていた。刺身!刺身!生ビイルを頼んで、飲む。これだけで美しい一日にさらなる幸いが加えられる。夏の終わりの旅先で、一日中電車に揺られたり歩きまわったりした後に飲むビイルは、底抜けに美味い!ここにきてやっと、ビイルのおいしさ、あるいは飲み方を知ることが出来たような実感だった。しばらくして、外国人観光客二人組が入ってきた。店のお父さんは「オレ英語話せないよ。」と言いながらも、しっかりと英語で書かれたメニューを用意している。私は刺身の盛り合わせを食べる。金沢は日本海側屈指の海鮮処だ。おいしいに決まっているじゃないか。他にも牛すじ煮込みに、白海老の唐揚げにと、食べたいものを食べていき、ビイルを飲む。言葉にはできない、いつまでも噛みしめていたい感情が湧いてくる。多くの人が考えているのと違って、ひとりの食事は少しも寂しいものではない。自分だけの満ち足りた食卓を作ることが出来るからだ。締めには鯛茶漬けと、完璧に幸福な食事だった。
 ほろ酔いで歩く夜の金沢の町。今日はほとんど徒歩で移動していたが、少しも疲れていないのに気づく。金沢は町並みがどこも美しく、歩いているだけでも楽しかったからだろう。各目的地間の距離も、遠くなくて、観光に面倒がない。町も分かりやすいし、動線がスムーズでもあった。さっきの居酒屋の英語メニューもそうだし、観光ガイドが常駐していたりと、金沢は観光客を受け入れる体制がしっかりとできている。だからこそ私たち旅行者は気持ちよく町を回ることが出来るのだ。宿舎は駅近くのビジネスホテルを取っている。駅に続く大通りを歩くと、大通りであるというのに、道端でネコがのほほんとしている。本当に美しい町である。ホテルは完全に汗を流すのと、寝るのだけに使ってしまったが、部屋のベッドの上に、和紙で出来た短冊に「ようこそ金沢へ」と書かれたものが置かれてあって、たいそう嬉しくなった。美しい町で過ごした美しい一日、これは私の旅の思い出のなかでもとりわけ美しいものである。


CIMG5044.jpg

CIMG5095.jpg

CIMG5092.jpg

CIMG5054.jpg

CIMG5056.jpg

CIMG5058.jpg

CIMG5065.jpg

CIMG5064.jpg

CIMG5072.jpg

140828_181929.jpg

CIMG5077.jpg

CIMG5071.jpg

140828_181158.jpg

CIMG5081.jpg

CIMG5078.jpg

140828_183201.jpg











にほんブログ村 大学生日記ブログ 医大生へ






この部屋からトータルへ 私たちとつながってください

  1. 2014/10/02(木) 20:54:12|
  2. 旅行記
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<金沢鈍行旅日記・二日目(一) | ホーム | 金沢鈍行旅日記・一日目(二)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://shibakeneet.blog.fc2.com/tb.php/416-4e9fe067
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

日常系赤面ブログ「野良犬の生活」を応援していただきありがとうございました

「野良犬の生活」の物語

 はじめましての皆さんへ

長い間ありがとうございました

レポート検索

最新レポート一覧

アーカイブ

2016 04 【1】
2016 03 【4】
2016 02 【4】
2016 01 【5】
2015 12 【12】
2015 11 【10】
2015 10 【14】
2015 09 【8】
2015 08 【15】
2015 07 【14】
2015 06 【11】
2015 05 【17】
2015 04 【12】
2015 03 【12】
2015 02 【9】
2015 01 【9】
2014 12 【8】
2014 11 【13】
2014 10 【22】
2014 09 【18】
2014 08 【2】
2014 07 【14】
2014 06 【13】
2014 05 【13】
2014 04 【22】
2014 03 【17】
2014 02 【28】
2014 01 【29】
2013 12 【28】
2013 11 【28】
2013 10 【29】
2013 09 【22】
2013 08 【20】
2013 07 【30】
2013 06 【18】
2013 05 【15】
2013 04 【19】
2013 03 【3】
2013 02 【6】

カテゴリ

コメント

トラックバック

メッセージ

質問・要望どんとこいです!

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。