野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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蔵王温泉入湯記(「氷の世界」)



 窓の外ではリンゴ売り―。
 先日、ある友人と私でこんなやり取りがあった。

『ねえ、今度、瓢湖に白鳥を見に行きませんか?』
「ああ、いいね。ちょうど、シバケンをドライブに誘おうかなって思ってたところだから。まあ白鳥もいいけど・・・・蔵王に樹氷を見に行きませんか?」
『あ、それいいね。そっちにしよう。』

ということで、時間にして数秒の顛末で、私たちの蔵王行きが決定したのだった。他にも誰か誘うつもりであったが、目星にしていた人物はことごとく予定が埋まっていて捕まらない。ついに小旅行前日に、一緒に焼き肉を食べに行った友人のひとりが行くことに決まったが、当日、体調不良で不参加になったため、結局男二人きりのドライブ・デエトの形式になった。こういうとき、助手席に座る私が、例えば美少女だったら向こうも決して悪い気はしないだろうが、現実とは全く残酷なもので、実際に彼の隣にいるのは、胸板厚く肩幅広い、そしてちょっぴり顎ヒゲの生えている、野郎中の野郎中の野郎なのだから。
 この友人とは、大学入学以来の付き合いで、私が友人と大小の旅行に出かける際に必ずと言っていいくらい関わっている人物で、以前、二人で廃墟を探検しに行ったこともある。お互い、ナンセンスな会話を生み出して発する特殊な脳機能と、それらを許容し分解する特殊な感覚器があるためか、あることないこと、妄想話に花を咲かせることが、よくある。私にとっては貴重な気安い級友であるため、今回のように時たま遊びに誘うのだが、そこには気兼ねなさの他に、彼が車を持っているからという魂胆も、少なからずある。
 
 出発はとある週末の午前八時。早く行って早く帰ることを目指していた。新潟無機終焉都市から、彼の愛車「マリコ」(基本ツンデレだが、最近はヤンデレ気味らしい)を走らせ、目的地までほぼまっすぐの一本道を、世間には発表できないような話を交わしつつ、新発田、胎内、関川村と順々に巡っていく。この道は滅多に走らないために、車窓には新鮮なものも多い。特に、道中で出会う、初めて名前を聞くような温泉に一層の興味を覚えた。
 新潟県は日本でも有数の温泉地であり、月岡や岩室などは有名で観光案内でもよく紹介されているが、それらの他にも、今回目にしたえちごせきかわ温泉郷の雲母(なんて読むか分かる?)温泉など、名を広く知られていない温泉地も点在しているのだと気づいた。私は持ち前の「つげ義春イズム」から、こういうまだ観光地化されていない温泉が気になってしまう。
 山形県に入り、米坂線や山形鉄道などと平行して走る。朝から微妙な天気だったが、この辺りからついに雪が降り始めた。降る雪と曇天と山間部の厚い雪の壁をひたすらに眺め、友人が「このドライブで聴こうと思った」という井上陽水氏の名曲「氷の世界」やその他の楽曲を流しながら、男二人でドライブしていると、どうも妙な感情になる。だが、赤湯温泉を過ぎてからは天候も落ち着き始め、上山市に入る頃には晴天が見えて暖かくなってきた。『これもオレたちの日頃の行いがいいからだ。』と得意になり、『これなら蔵王も晴れてるんじゃない?』と根拠のない期待をする二人を乗せて、「マリコ」は往く。
 ついに道路に看板に「蔵王」の文字が見え始めた。これまでこの二文字を一向に見かけないので、少し心配になっていたのである。そしていよいよ蔵王かと思われる山道に入れば気分が高揚し、車内で意味もなく「うおおおお!」とか「よっしゃあ!」とか言っちゃうのである。恥ずべき。
 山道は思ったよりも長い。初めは気候も安定し、路面の調子もよさそうだったが、次第に道路が雪に覆われ始め、次には雪が降り始めたりと、周囲の景色が段階的に変化していく。やはり冬の山の天気はこうなるよなあ、と先ほど『蔵王も晴れてるんじゃない?』とか軽々しく見ていたことを反省する気持ちだった。程なくして蔵王温泉の街に突入した私たちは、まずは樹氷を見に行くということで、蔵王ロープウェイに向かったのだった。時刻は午前十二時近く。大粒の雪がしんしんと降っている。

 “冬の王様”蔵王の有名な樹氷は、ロープウェイで地蔵山の山頂に行くことで見物することができるらしい。そのため、我々もその伝で事を進めたが、基本的にこのロープウェイは観光用ではなくて、スキー場の利用者のためのものらしく、車内は私たちの他にスキーウェアを着込んで板を担ぐスキーヤーでぎっしりになった。こういう中で、普通のコートを着ていると、何とも言えず、みっともない気持ちになる。ちなみに私は雪国・秋田県の生まれだが、スキーの類は全く嗜まない。高校時代は週に一度のスキー授業があったが、それもほとんどサボったくらいである(評価のための実技試験には参加したが)。だが、こうやってロープウェイからゲレンデでスキー、スノーボードに興じる人々を見下ろしてみると、なんだか無性にスキーをしたくなってくるから不思議なものである。
 蔵王山麓駅から樹氷高原駅へ。そこから乗り継いで地蔵山頂駅へ。ふもとの時点で雪が降っていたし、乗車券の販売員に色々と尋ねてみた際、山の上の方は天候が悪いと聞いていたから多少覚悟はしていたが、なるほどたしかにこれはヒドい。気温はもちろん氷点下なのだが、そんなことよりも、風が吹いているというのが遥かにツラい。ロープウェイに乗っている時も、風で揺らされて、大層怖い思いをした。
 時間的にまずは山頂のレストランでランチを摂ることにしたのだが、実はレストランからは樹氷を眺めることができるのだけれども、やはりここでも荒天の脅威のために、視界がかなり悪くなっており、前方一列目の樹氷の姿は認めるものの、その後方についてはただただ吹雪の白いベールに覆われて何も見えない。本来の目的である樹氷は「アイスモンスター」と称されるのが納得できるほどのゴツゴツとした巨躯を有っていたが、その光景よりも屋外の吹雪への不安と恐怖が勝り、残念なことに素直に感動できなかった。
 しかし、せっかくここまで辿りついて何もしないで下山するのも惜しく、昼食後に意を決して外へ出る。案の定、そこでは吹雪が凄絶に吹き荒れ、どこを見ても一面白色で数メートル先の物が見えない状況だった。樹氷が見えるかと思って、しばらく彷徨い歩くも何も見つからない。何をするともなく、声にならない呻きを出しながら徘徊をしていたが、他のスキー客が「地蔵は見なきゃ。」と言っていたので、私たち二人もこれに着いていくがままに歩いていたら、その先に全身がすっぽりと雪に埋り、辛うじて顔は見せている痛ましいお姿のお地蔵様がいた。シュールである。
 これは気をつけないと迷子になってしまう。そして、迷子になってしまったら、それはつまり死出の旅への出発を意味しているということも分かった。雪が顔に容赦なく打ちつけられ、寒いを大幅に通り越した、激痛の感覚が襲う。負けじと『これも、いい経験でした!』とばかりに、記念写真を数枚スナップしたが、吹雪はさらに勢力を増し、目を開けることも歩みを進めることも困難な状況になった。本能的に『これは死ぬ。』と感じ、勇気を振り絞って建物まで走る。走ってる最中は『死ぬ!死ぬ!』とばかり思っていた。避難しての第一声は、『死ぬかと思った・・・・。』だった。
 再びレストランに逃げ込み、全身についた雪を落としながら、お互いに、自然の脅威をナメていたこと、否、全くの無知であったことを恥じ入った。これほど生命の危険が危ない体験は初めてだ。まさしくこれは吹雪吹雪の「氷の世界」そのものであった。ロープウェイの職員の話では、頂上は大体こんな感じらしい。となると、よく観光案内に掲載されている晴天の下の樹氷群の写真は、もはや奇跡の産物ではないのだろうか。動揺を抑えられぬままに、再びロープウェイに揺られて下山する。その最中、『ブログ(赤面)になんて書こう・・・・。』とばかり考えていた。とりあえず、書き出しは「窓の外ではリンゴ売り―。」にしようと思った。

 樹氷との出会いが大きな目標だったが、蔵王温泉の名湯に浸かるというのも、旅のもう一つの目的であった。吹雪で肉体的にも情緒的にも凍えてしまったので、一刻も早く湯に入りたいところである。まず、私が事前にピックアップしていた旅館Tに行く。享保の時代に創業した、格式高い老舗中の老舗中の老舗である。立ち寄り湯をやっているかは分からなかったが、とりあえず訪ねてみることにした。温泉街の細い道を進み、適当な駐車場に「マリコ」を留守番させて、旅館へ歩く。雪がしんしんと降る中、硫黄の匂いが立ちこめていた。幸いにして、目的の旅館はすぐに見つかった。成程、格調高く風情もある外見である。雪おろしをしていた。館内は照明がほのかに灯り、ノスタルジックな雰囲気で包まれている。「帳場」などの文字も浪漫的に演出している。しかし、肝心の立ち寄り湯は夜からのようで、我々はやむなく断念せざるを得なかった。
 旅館での立ち寄り湯は不確定要素が強いから、これも事前にチェックしておいた温泉施設Sに行くことに。風情では旅館に劣ると思ったが、もう温泉に入れるならどこでもいいや!施設は比較的大きな通り沿いにあるために、諸々の面倒も少ない。
 蔵王温泉は、白布温泉、信夫温泉とともに、古来から「奥羽三高湯」に数えられている名湯である。泉質は強酸性で、「子供が丈夫に育つ湯」、「難病治療の湯」、また、肌を滑らかにする「姫の湯」、「美人づくりの湯」などと言われているらしい。先日、旅行雑誌を立ち読んだ際に、「雪見の湯」として蔵王温泉が紹介されていたから、個人的には「雪見」という興に思いを馳せていた。
 早速、大浴場に至ったが、どういうわけか、あの浴場特有のムッとする熱気はなく、むしろ屋外のように肌寒い。露天に向かう扉が開いていたのだろうか、とにかく寒くて仕方がない。早々に身体や髪を洗い、ひとまず冷えから逃れるために内湯に浸かるのも束の間、雪降る露天風呂へ。しかし、やはり寒い!しかも、湯船に続く小道にはあろうことか雪が積もっており、それを裸足で踏みながら向かわなければならないのだった!身を震わせながら小走りで湯船に直行し、すぐさま湯に浸かる。自分の身体が解凍されていくのを感じた。
 最初は、雪や風が当たって肩を出していると寒いために、首までどっぷりと浸かっていたが、次第に身体に熱もたまっていくと、そういう寒さを気にせずに、露天を楽しむことができるようになった。ここには木造の屋根に覆われた石風呂が二つに、ひとり用の桶状の湯船が三つある。桶状の湯船をひとり占めするのは、なんとも言えない贅沢である。しかし、雪が降り積もっているということを考慮すると、屋根の下の石風呂の方が、この日は風情の点で勝っている。雪景色の庭園の中、雪の積もった木の屋根の下に、温泉がある。第一、その見た目からして、艶やかな趣があるじゃないか。あの雑誌を見て以降、「雪見風呂」とはどんなものか気になっていたが、そこには純日本的な魅力があった。病みつきになりそうである。湯上がりはフルーツ牛乳で人心地を得る。てか、フルーツ牛乳これグングングルトだ!

 蔵王での目的を果たして、帰宅の途につく。早速、「旅館の若女将の娘」というテーマで下衆話が始まったのだが、あまりにも無益だからここでは発表はしない。往きで約四時間を要したため、無機終焉都市に到着するのは七時過ぎくらいが予測された。当初、二時間くらいで行けちゃうんじゃない?とか思ってたが、私たちの目論みは最初から最後まで甘かったようである。
 下山すると、午前は穏やかだった下界の空からも雪が降り始めていた。それだけならいいのだが、帰路を進むにつれて風も出てきて、全く穏やかじゃなくなってきた。度々、風が路傍の粉雪を吹き飛ばして、視界を覆う。こうなると、フロントガラス一面が真っ白く染まって、前が何も見えなくなる。大いに危険である。また、路面が凍結し始めて、注意すべき物事が増えてくる。前方車の車上に積載していた脚立が落ちたりと、一歩間違えば洒落にならないイベントにも遭遇したりして、私たちは終始戦々恐々の帰り道を強いられることになった。私は助手席に座って時折注意喚起をしたりするだけであったが、実際に運転していた友人はもう気が気でなかったろう。いつもいつも苦労をかけて心から申し訳なく思う。
 一時はどうなるかと思ったが、何事もなく無機終焉都市に戻ることができた。夕食はどうするか尋ねてみると、彼はこれから用事があるという。当初の予定より遅く着いたがと問うと、やはり先方を待たせているみたいだった。毎回こういう事態に遭うと、一日にそんなに予定を詰め込まない方がいいのにと思うが、これは私のように、交友の少なく、そもそも詰めるほどの予定も立たない日蔭者の考えであろう。自室に戻った私は、ひとり、ウイスキーで晩酌することにした。オールド・クロウを水割りで。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

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