野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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銀山温泉投宿記

 山形・尾花沢が誇る人気の温泉地・銀山温泉には、五つの季節があるという。それは春、夏、秋、冬、そして“真冬”の五つだ。今思うと、私たちが訪れたあの日の銀山は、まさに“真冬”の最中であったような気がしてならない。

 この銀山温泉旅行の案は、先の病棟実習で私の所属していたⅩⅣ班と、一つ数字の若いⅩⅢ班の合同慰安旅行として生まれた。「大正ロマン」というキーワードで語られることの多い銀山温泉は、私がかねてから訪れたいと願っていた場所の一つであった。そういうところへ、ふと私の周囲で自然と銀山温泉旅行に出かける“なりゆき”ができていたのは、全く好都合であったと言う他ない。ちなみに、当初、合同の慰安旅行として浮上したこの旅行は、個々人の事情によって最終的に二班で四人の参加に終わり、班合同云々というよりはもはやただの旅行であるように思えた。
 新潟無機終焉都市から銀山温泉までは、四人で唯一、日常的に車を使うクラスメイトの運転で向かう。二日間で往復約八、九時間の運転をすべて彼に託してしまったのは、実に申し訳なく感じた。新発田、胎内、関川村・・・・と、途中までは、二か月前に敢行した蔵王ドライブの際とまったく同じ道を走るので、まるでデジャブでも見ているような感覚を来す。その時に曲がった蔵王への分岐を、この日はそのまま山形市街方向へと進む。途中、山形駅でのランチを挟んだのち、雪が降る中、再びナビゲーションシステムが示す道順を忠実に辿っていくと、周りの風景は見る見るうちに田舎道から山道に変わっていく。それから程なく、道が積雪によって途切れていたのを目の当たりにし、大いに狼狽たえた。そういえば宿の人から、冬場は山間の道は雪で通れなくなるから、尾花沢から国道を辿って来てというお達しがあったのだった。すっかり忘れていた。
 元きた道を引き返し、例の伝で尾花沢方面から向かうと、思ったよりも早くに銀山温泉に着いた。途中、ハプニングもあったが、山形市で食事をしてからここまで、一時間とちょっとしか経っていない。確かに山の中にある温泉場ではあるが、思ったよりもアクセスはいいみたいだった。空から、水分を含んでボタボタとした大粒の雪がしんしんと降っている。これは積もる雪である。
 温泉街への一般車の乗り入れは禁止されているので、途中の駐車場で車を停め、そこから歩かなくてはならない。宿泊客専用の駐車場には旅館の従業員の人が待っていて、私たちの荷物を車で宿まで運んでくれる。駐車場から温泉街まではまあまあ距離があるので、これは嬉しいサンビスだ。駐車場から銀山の街まで、雪の坂道をえいこらえいこらと下りていくとしばらくして、夢みていた景色が目に入ってきた。雪に包まれた銀山温泉の街並み。銀山川を挟んで並ぶ旅館などの建築が、現在も大正時代の面影を残している。
 雪も降っているので散歩や写真撮影はほどほどに、まずはお宿に向かう。宿は、旅館Nを取った。銀山温泉を代表する名旅館で、竣工大正の本館は国の登録文化財として保存されている。それだというのにちっともお高くとまるようなところがなく、宿の人たちはとても親しみやすく、心尽くしのおもてなしをしてくれた。館内も歴史のある佇まいだが変に格式高くはないので、落ち着いて過ごすことができる(他にあまり宿泊客がいなかったのもよかった)。連綿たる伝統があるわりに、宿代は思ったほどではないので、もう何回でも泊まりたいと思う。
 ちなみに、宿を取る際、最初はインターネットで調べてみたが、お目当ての本館川側の部屋の空きがないというふうに表示されていた。念のために直接宿に電話して問い合わせてみると、ネットの表記とは裏腹に、実際は空室があるということであった。この体験から、旅館の予約は電話でやった方が分かりやすいということを学んだ。後でキャンセルが出たときなど、何回も電話でやり取りしたが、応対も柔らかくて、感じが好い。キャンセルが出たことで、本当はひとりひとりの宿泊代が少しだけ高くなるのだが、こちらが学生であるということで、代金はそのままにしてくれた。旅館N、本当に素晴らしいお宿です。この対応に、本当の「ゆとり」というべきものを感じた。なお、私たちの部屋は本館川側で、二階と三階を結ぶ風情ある階段の近くの二部屋(参加者は男女二人ずつだったので)だった。各階の間取りを考えると、この部屋はとりわけいい部屋だったように思える。
 あたたかいサンビスということでもそうだが、この旅館Nは登録文化財に指定されるほどに貴重で面白い建築になっている。大正十年に完成した木造三階の本館の大きな特徴となっているのは、四階というべき頂上部の小さな小部屋である。天井が吹き抜けとなっているここは現在談話室として利用されているのだが、私たちが訪れた日は、季節の催しとして、大きな雛飾りが置かれてあった。正直にいうと、いつも通りの姿を見てみたかったというのが本心である。他にも、先述の階段や外装の鏝絵など、見どころはたくさんある。館内を散歩したり、廊下の奥の椅子に座ってボーっとしているだけでも十分に楽しい。
 部屋に案内されしばらく寛いだのも束の間、クラスメイトと私は浴衣に着替え、早速入浴へと繰り出す。この旅館には、開業当時から元湯として利用されている洞窟風呂があり、今は貸切風呂として利用することができるのだ。私はチェックイン時にこの説明を耳にしたときから、「洞窟風呂」という響きに男心をくすぐられていたのだが、それはおそらくクラスメイトも同じであったであろう。貸切風呂ということだが、予約などは特に必要ではなく、浴室に入って内鍵をかければそれでよしという、実にシンプルなシステムになっている。フロントに電話をする煩わしさがないため、この簡潔さはとてもいいものだ。ひとりでも気兼ねなく利用することができる。脱衣所から浴室への階段を下りるときのワクワクは冒険の楽しみに似ている。天井が低く、湯気が充満している浴室は、まさに非日常の景色。数々の岩でできた湯船は小さいが、その小ぢんまりとした狭さが逆に落ち着ける。貸切ということで、他の人が絶対に入ってこないという安心感とちょっとした優越感から、何の心配もなく寛ぐことができる。長時間のドライブと、寒さと雪とで固くなった身体がじわりじわりと解凍されていくのを感じた。まさに至福のとき。
 風呂からあがって部屋に戻り、運転の疲労からダウンしてしまったクラスメイトを残して、私は旅館の小探検に出かけた。友人との旅行での楽しみは、ひとりで過ごす束の間の時間である。温泉宿にきたというのにあちこち動き回っては、かえって疲れてしまって本末転倒であるかもしれないが、私はまだそれほど枯れてはいない。温泉宿でひたすらのんびりというのは、もっと年を重ねてからの楽しみにとっておきたい。いまは、年相応に気の向くまま歩き回っていたいのだ。ロビーに談話室にと、本館内を縦横に見て回った。ちらこちらで残っている在りし日の面影を見て取るたびに、ああ自分はいま歴史ある旅館に泊まっているのだなと実感することができる。入浴の火照りも冷めやらぬままひとしきり歩き、廊下の椅子に腰かけてサイダーを飲みつつ窓の外に降る雪を眺めていると、何とも言い難い満足感が湧いてきた。
 みんなで銀山の街へと繰り出した。宿では防雪として、長靴やアウターなどを貸してくれるが、私は浴衣の上に太宰治マントを羽織っていたので、わざわざ自分のブーツ(靴は玄関で預かってもらう)を出してもらって気取っていた。銀山温泉は五百年の歴史があり、先述の通り、銀山川を挟むように木造の旅館が軒を連ねている。その街並みは「家並み保存条例」なるものによって守られており、大正当時からその景観と趣が受け継がれている。歩いていると、思わずタイムスリップの錯覚が生まれてくる。温泉街の付近には白銀の滝や、「銀山」という名の証である、かつて栄えた銀山の坑道跡がある。滝は見てみたかったが、何を思ったか、クラスメイトが運転の疲れもあるだろうというのに、銀山跡まで行ってみようと言い出した。この凄まじい降雪の中、銀山までの山道をブーツを履いて歩くのはどうしても避けたかったが、一方、強く反対する気もなかったので、観念して歩みを進める。温泉街を奥に進み、旅館Tへと続くような急勾配の道を上ると、そこには白銀の滝が凄絶な轟音を轟かせながら、その全貌を見せた。雄大で荒々しいその姿には、生命に直結するような恐ろしいものを感じた。坑道へはさらに奥へと入る必要があるが、幸か不幸か、そこに至る道は雪によって閉ざされており、銀山探検はそこで打ち切りの運びとなった。ほっとした。
 日が落ちてからも温泉街の散策に出かけたが、オレンジにあたたかく灯るガス灯が実にロマンチックである。木造の日本風の建物が並ぶ街を洋風のガス灯が照らすという景色は、私の好みど真ん中を打ち抜く。「和洋折衷」が好きなんだろうな、自分は。夕刻になっても、空から降る雪が勢いを落とすことはない。雪が降ってしまうと大変なことも増えてくるが、一方で、普段はない一種の“きらめき”が生まれてくるので、これはこれで実にいい風情を醸している。「雪見温泉」というカテゴリに人気があるのも頷ける気がする。
 そして、お待ちかねの夕食だが、会場を向かう際、別室の女性陣に声をかけると、どういうわけか未だに私服を着ているではないか!昼間ならまだいいが、浴衣を着ずに夕食の宴に臨むのは、温泉宿でのお作法に反している(と思う)。私が女性の浴衣姿に目がないということは一切関係なく、ルール違反というのは実に由々しき問題だ。大変だ。クラスメイトが「浴衣に着替えたら?」と薦め、私が『浴衣を着て下さい・・・・。』と頼んで、彼女たちも宿の浴衣に着替えることに。そうそう、それでよいのだよ(悦)。
 宿のご飯は温泉旅行の醍醐味の一つだということは言わずもがな。地元の食材をふんだんに取り入れた様々な料理が並んでいるのは、それだけで心躍る光景だ。旅館Nの夕食は、牛と豚のしゃぶしゃぶ有り、天ぷら有り、蕎麦有り、シメに汁物と白米が有りと、思ったよりもボリュームのあるラインナップになっている。そしてどれもこれも美味しい!嬉しい!美味しいものを食べお酒を飲みながらヤイヤイやるのは実に楽しいものですな。これはひとり旅ではあまり味わえない妙味だ。食事中に、旅館の女将さんがやってきて、お酒を振る舞い、銀山についてのお話などを聞かせてくれたが、この女将さんのオーラが凄まじかったのなんの。他の仲居さんたちとは違った着物でキメて颯爽とやってくる姿は物凄くかっこよかった。
 食後には、別館の大浴場へ浸かりに行く。アルコオル類を飲んだあとに温泉に入るのはあまりよくないことだとは知っていたが、入りたくなるのだから仕様がない。先の洞窟風呂とは違い、大浴場は新しく、とりたてて特徴のあるものではない。屋根と柵に囲まれた露天風呂は屋外にあるというだけで、実際、何か目を惹くような景色は見ることができない。しかし、温泉に浸かって芯から温まった身体に、時折入り込む雪や外の冷気は実に気持ちがいい。たまに柵に積もった雪で遊んだりして冬の温泉を楽しむ。
 夜も更けると、外を歩く人の姿はなくなる。部屋の窓からガス灯の灯りや、それによってほのかに照らされる街の様子を眺めていたが、時間も時間だというのに、再び外に出たい欲求が湧いて出てきた。銀山の夜は明日になってはもう堪能することができないと思うと名残り惜しく、居ても立ってもいられなかった。もう人々も床に着いている時間帯だ。温泉街も寝静まったかのように閑としていて、川のせせらぎと雪が所々に降り当たる音しか聞こえてこない。昼間はいくらか活気が感じられるのだが、ここまで人気のなくひっそりとしているのは多少気味が悪い。他の旅館の玄関口に佇む狸の置物と目があったときは背筋が凍るようであった。帰室してからは特に何をするともなく、明日に備えて就寝の段となった。
 起床は午前六時頃。クラスメイトはまだ起きそうもなかったので、ひとりで朝風呂に向かう。本当は貸切の洞窟風呂がよかったのだが、私と同じ考えの客がいたらしく使用中であったため、ひとまず大浴場へ。朝早くの温泉は他の客の姿もなく、ひとり占めできることが多い。この瞬間がまたたまらないのである。早朝の清廉な空気のなか、露天にひとり静かに浸かれば、普段、自分をつなぎとめている諸々の出来事も忘れ、意識の疲れもひとときながら癒されるのである。上がった頃にクラスメイトもやって来たので、洞窟風呂に向かうことを伝えて別れる。再び貸切の洞窟に行くと、今度は空室の表示であった。ひとりで貸切風呂。なんという贅沢。
 さて、どうして旅館の朝ご飯はこんなにもご飯のお供がたくさん出るんだろう。焼き鮭、梅干し、海苔、温泉卵と、オールスターは誰も欠かさず登場しているではないか。おそらくご飯をおかわりしてもらいたい一心であろうが、私はご飯のおかわりというものができない性分(食べることはできるけど、したくない)なので、一杯分でうまくやりくりしなくてはならないのだ。なお、朝に出たご飯は白飯ではなく、大根ご飯で滅茶苦茶おいしかった。
 食後のサンビスでコーヒーをいっぱい頂いてから、荷物を片づけ浴衣から着替えて、大石田までの送迎バスの出発を見送り、落ち着いて帰途につく。荷物はやはり宿の人が駐車場まで運んでくれる。それをいいことに、宿を出てからも写真を撮ったりお土産を買ってりして、だいぶのんびりと過ごしてしまったので、宿の人を待たせてしまった。旅館Nの皆さまには、最初から最後まで至れり尽くせりのおもてなしをいただいた。温泉宿とはそもそもこういうものなのであろうが、旅館に泊まるのがあまりにも久しぶりなもので、改めて丁寧な接待を受けて感動を覚える気持ちであった。
 一夜明けても、重たい雪がひたすらに降り続いている。真っ白な雪化粧で飾られた、“真冬”の銀山温泉。タイミングが合わなければ見ることのできないその景観との出会いは、まさに夢のような出来事に思えた。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

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