野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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湯沢温泉入湯記

 越後湯沢を訪れるのは、ちょうど一年前、当地で地域医療実習をしていたとき以来だ。日曜日ということで、越後湯沢駅構内はたくさんの人で賑わっている。
 帰りの列車の出発まで、あと五時間もある。のんびりと温泉に浸かって、日頃の疲れでも癒していこうか。
 観光案内所で、立ち寄り湯のできる旅館について問い合わせてみると、ほとんどの宿では、日帰り入浴は午後から提供しているらしかった。その辺りの時刻まで、どこかで時間を潰した方がよさそうである。
 電車の時刻のこともあるので、目星の立ち寄り宿を決め、大体のタイムスケジュールを組みながら、湯沢温泉の街並みを歩き始めた。まずは、湯沢高原ロープウェイを目指す。温泉が開く頃まで時間を過ごすとしたら、このくらいの方法しかないように思えたし、爽やかな晴天の日曜、緑の高原に出かけるのも悪くはなさそうだった。
 駅から歩いて二十分ほどで、ロープウェイ山麓駅に着く。予め、駅前の観光案内所で割引の往復券を購入していたため、山麓駅ではそれと公式の往復券を引き換えるだけでいい。時代に取り残されたような寂しげなゲームコーナーを見過ごして、早速ロープウェイ乗り場に向かうが、間もなくの出発を控えているゴンドラの中には、私の予想以上に多くの観光客が乗り込んでいて、意表を突かれた。あれほどに多くの人が乗っていても、世界最大級だというゴンドラの中には結構なゆとりがある。
 客車が動き始め、山頂を目指して上へ上へと上っていくにつれて、眼下に広がる湯沢の街並みもはるか彼方へと離れていく。周囲の山々の緑は眩いばかり。
 ゴンドラを降り山頂駅前の広場に出ると、そこには、何も遮るものもなく、まるで青空が広がっているばかりのような、高原の景色が広がっていた。涼しげな風も吹いて、ものすごい開放感である。
 「恋人の聖地」と認定されたらしい「天空の鐘」や、雲の上の足湯といった意味不明で無粋なものは無視して、ソフトクリイム片手に彼方の山脈を眺める。山肌の新緑と残雪がマーブル模様を描いている。こういう高原の光景をどこかで見たなあと思ったら、これアレだ。「サウンド・オブ・ミュージック」。




 チューリップも咲いちゃった急峻な坂道を、「愛宕山」もかくやの息切れを呈しつつ歩くと、展望台に至る。魚沼連峰や谷川連峰と山々や、眼下の魚沼平野に広がる越後湯沢の街並みを一望にすることができる。
 元きたところまで下山する必要があるが、普通に歩いて下りる以外に、ボブスレーで一気に駆け下りるというのと、リフトに乗ってのんびり下りるという方法があった。ひとりでボブスレーに乗っても楽しめないし、むしろ空しい気持ちになってしまいそうだったので、リフトを採用することにした。
 リフトとは、スキー場にあるリフトそのままをイメージしてもらえればいい。これで登山下山両方をすることができる。爽やかな晴天に緑が映える森の中をリフトで空中遊覧するのだ。そよ風に揺られて、非常に心地がいいが、結構高いところを渡っていくし、身体は特に固定の類はしない(セーフティバーはあるけど)ので、なんだか少し心もとなく、ちょっとしたスリルも感じられる。
 リフトを降りたところに、高山植物園がある。池の回りのちょっとしたトレッキングコースを歩けば、いろんな草花を観察することができる。山頂では、季節が少し遅れているのだろう、ミズバショウが見ごろであった。その他、サクラソウという花が可憐で慎ましく思われた。池の中をよく見つめてみると、カエルの卵がまさに今孵ろうとしているところで、次々と小さなオタマジャクシが飛び出している。どうやらこの山の上は、まだ春がやってきたばかりらしい。ふと見上げると、何かは分からないが、白い綿毛のようなものがそこらじゅうで、風に吹かれて青空を舞っている。なんとも不思議な光景を目にして、メルヘンの世界に迷い込んでしまったような気がした。
 山頂をロープウェイで降り、再び温泉街を歩いていく。お昼の時間でそろそろ腹の奴が嘶き始めたので、通りの飲食店を物色しながら進むが、どうもグッとくるものがなく、結局この時はランチは摂らずじまいであった。
 温泉街のだいぶはずれの方までやってきた。ここまでくると、通り沿いは民宿ばかりになってくるが、どの宿でも二階の窓から布団を垂らして日に干しているのが、いかにも温泉地らしい光景で、好ましく思えた。
 ロープウェー駅から歩いておよそ二十分、いよいよ汗が滲み始める中、トドメの坂道を登りきったところに建つ旅館Tに到着した。この宿に、立ち寄り湯の目星をつけていたのだが、実をいうとそれ以外に、もう一つ訪問の目的があった。
 川端康成先生の「雪國」は、読書を嗜まない人でも知っているような、まさに代表作の一つであるが、実はこの小説の舞台は、ここ、越後湯沢の地なのである。そして、この旅館Tこそ、先生が三年に亘る当作の執筆に取り組んでいたお宿なのである。宿には今でも、先生が滞在していた部屋・かすみの間が残されている。私のもう一つの目的が、このかすみの間への訪問であったのである。
 旅館はガランとしていて人気(ひとけ)がない。お昼時というのは、まだ宿泊客もやってこないような時間であるからだろうか。宿の人がやって来たので、立ち寄りの旨を伝える。かすみの間の見学もするかと尋ねられたので、『はい。』と答えると、入湯と見学合わせての料金をまけてくれた。
 この宿の人がなかなかの好人物で、駅からここまで歩きで来たことを言うと、「おつかれっす!」と言って労ってくれた。タオルを持ってないといえば貸してくれるし、入湯の時間を少し早めてくれたりもした。
 宿としても、湯沢最古ともいわれる老舗らしい味わいもありつつ、決してお高くとまったところのない、とても親しげな旅館で気安かった。夏期ということで振る舞われる無料のかき氷のサンビスや、大浴場付近の読書コーナーの、時代やジャンルを問わない蔵書の豊富さなど、なにかと心魅かれるものが多く、いつかの機会にまた、ゆっくりと泊まりに来たいと思った。
 一九三四(昭和九)年から一九三七(昭和十二)年にかけて、越後湯沢に滞在していた川端康成先生が、名作「雪國」を書き上げたのが、当館のかすみの間である。現在もかすみの間は当時そのままの姿で保存がされ、部屋をと訪れることができる。先生が使っていた文机は残っていないが、豪勢な食卓や座椅子、火鉢などの調度品や、「雪國」のヒロイン・駒子のモデルとされている芸妓・松栄が控えていた小部屋の痕跡などがあり、在りし日の面影に浸ることは十分にできる。
 川端康成先生と関係があるということもそうだが、映画「雪國」の撮影にも使われたり、与謝野鉄幹・晶子夫妻や北原白秋夫妻の訪問を受けたりと、その他にも色々な由緒があるようだった。そういうこともあってか、この旅館には川端康成先生直筆の「雪國」の色紙をはじめ、素人目に見ても大きな価値のあることが分かる文学資料が所蔵・展示されていて、中々見応えがある。
 かすみの間や資料室を見学していたところ、例の宿の人が、お風呂の準備ができたと伝えにきてくれた。本来の入湯開始時刻より少し早く、なんだか得したような、特別な気分になる。風呂場に入ってすぐ目にとまるのが、脱いだスリッパが誰のものかを識別できるクリップ(スリッパに挟む)だが、そのクリップに花札をあしらったモチーフがされてあって、お洒落な演出だと思った。
 露天風呂は女湯だけにあり、男風呂には小さな湯船が二つというシンプルな浴場になっている。湯船の大きさの割に、洗い場のスペースは広めにとっているので、広々と歩くことができる。
 二方に貼られたガラス窓は広大で、宿自体が高台に建てられていることもあって見晴らしは割といい。上越新幹線のガーラ湯沢駅もよく見えたが、もしかするとあちらから風呂場の様子を確認することもできるかもしれない。旅館の廊下はすっかり近接しているので、これについては完全に丸見えである。人が歩きやしないかドキドキしながら入湯したが、ついに誰も通らずに終わった。露出の楽しみを有つ向きにはうってつけであろう。
 湯沢温泉は源泉の温度が低めであることで知られている。天然源泉の湯元を引いているこの宿でも同様で、湯舟になみなみと満たされた温泉はぬるめになっている。のぼせる心配なく、のんびりと浸かることができるので、これはこれでいい特色であろう。
 また、時おり湯船のなかにとき卵のような湯の花が咲くことから「卵の湯」という呼ばれ方もしているそうである。湯の花自体はそれほど珍しいものではないが、「卵の湯」というのは、“美人の湯”としても名高い湯沢温泉にふさわしいような気がする。
 この日の私は、早起きをしてからずっと動き詰めで疲れていた。日本晴れの下をひたすらに歩いて、汗もかくほどだったので、このような身体にぬるま湯は一層沁みわたる。入湯が始まってすぐの一番風呂であるからか、風呂場には私の他に人の姿はない。独占しているのが無性に嬉しく、気持ちもよくなってきて、好きな歌を思いっきり歌ってしまう。声が響いてさらに気持ちが快くなる。
 湯上りには、例のかき氷のサンビスを利用する。自分で作る形式であるが、よくあるかき氷用のカップがなく、辺りにはただの紙コップばかりが置かれてあったので、仕方がなくこれを器に利用することにする。コップに氷を落とし入れるのも一苦労であるし、量としては物足りなかったのだが、温泉で内側から火照った身体に、氷の冷たさが心地よかった。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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