野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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高田独歩記(たかだひとりあるき)2

 上越市高田にきてからというもの、毎日の実習は朝早いものになっていた。たまの休みくらいは多少の寝過ごしは許されそうだが、私はもともとが朝型のshort sleeperであり、早めに設定してある目覚ましの時刻より、数分前に自然と目が覚めるといった特技の持ち主でもある。そのため、平日の真ん中に割って入った祝日であっても、私はいつも通りの時間に起床した。平日の中日が休みになるというのは、もしかすると連休があることよりも嬉しいかもしれない。連休は惰性に付け込まれやすいものだが、中途一日のお休みは、勤勉に過ごそうという意気が自然と湧いてくる。
 朝食を摂って程なく、私は外に散策に出かけた。高田に滞在する日にちはまだまだ残っていたが、週末にどんな予定が入るのかは全く見当がつかないので、当地を観て回るチャンスがあれば、それは逐一活用していった方がいいように思われたのだ。
 聞くところによると、どうやらこの日は朝市が開かれているようであった。上越地方には、主に明治の時代に端を発する朝市文化が息づいていて、この日は大町という「雁木(がんぎ)」で有名な通りに市が出される。雁木というのは、通りに面する各家の軒先を、路に突き出すように幅広くとってアーケードとしての機能を持たせた、昔ながらの雪国独特の工夫である。太宰治の「津軽」に「こみせ」という造りについて書かれてあったが、それと同類のものだと思われる。雪国独特とは言うが、私の郷里秋田県にはこのようなものはない。総延長で日本一の長さを誇る雁木の街並みというのは高田を象徴するような景観の一つであり、それを背景として朝市の店が軒を連ねているのを見ると、いかにも当地を訪れた感慨を引き起こすだろうと思った。
 市には野菜や山菜、魚介などの店が並んでいる。店主がよぼよぼとしたご老体であるのがほとんどで、なんとなく、地方の朝市に似つかわしいように見えた。朝市のことは観光案内にも載っているとはいえ、実際にはお客のほとんどは地域の住民である。旅行者は市に出かけても思いっきり買い物ができないので、見るだけで楽しいとはいっても、本来の妙味を堪能することはできない。私はこの際、高田に滞在していたが、生活の基盤は甚だ不安定で自炊に積極的でもなかったため、魅力的な食材の並ぶ各店を横目で見過ごしている他に仕方がなかった。
 何かの案内に、「朝市の名物はどら焼き」ということが書かれてあったのを思い出し、その露店を探して歩いたが、それはすぐに見つかった。なぜならそこにどら焼きを求めるお客の行列ができて目立っていたからだ。どうやら「名物」という表記は観光振興課の見栄ではなかったようである。しかもその列は、私を除いたうちのほとんどが地域の住民で構成されているようであった。地域の人々にも愛されている名物ほど信用の固いものはない。私の前に並ぶ人が皆十個、二十個の単位で購入していくので、それほどに欲しいのだろうかと半疑に陥ってしまう。私は通りすがりの余所者なので、謙虚に二個いただいた。どら焼きとはいうが、これは「ドラえもん」的なものではなく、どちらかというと大判焼きのようにコンパクトな大きさなので軽く腹に収めることができる。絶賛するほどではないが、素朴な味で決して悪くない。喉が渇いてきたので、自販機でお茶を買う。
 市を抜けて、雁木の通りをしばらく歩き、小川未明先生の生誕の地(記念碑しかないのでガッカリした)のところまで来た。流石に徒歩で行くには遠い場所まで来てしまった観が兆す。近くにスーパーマーケットがあったので、そこでサイダーと、田舎の祖母へのお土産にアマニ油を買った。祖母がアマニ油を欲しがっていたが、故郷ではまだ売っていないのである。それからは駅方向に引き返して行くが、途中の高田世界館がこの日も何かのイベントを催しているようで、見学することができなかった。高田小町という施設に、御不浄を借りに寄った。

 ここからはすでに宿舎への帰路についていることになるが、その途中で色々と立ち寄っていく計画を取る。本町通りを直進していたところで少し右手に入っていく。細い川を渡り、場末感漂う仲町や歴史ありげな料亭を見過ごし、高田駅から伸びる線路を跨いだ向こうに行けば、そこは寺町という区画である。地図を見れば瞭然とするが、この区域には実に数多くの寺院が現存している。私は寺を訪ねるのが好きな方ではあるが、流石にこの数を廻るのは御無理というもの。今回は、この中でも特に有名な浄興寺に参るつもりであった。
 浄興寺大門通りをまっすぐ進んでいく。住宅街を抜けると、路の両側に寺が並び始めるが、その路の突き当たりに浄興寺が控えている。ここ寺町の区画でも見どころとされている浄興寺はとても大きな寺だ。十年ほど前に大修理を終えた本堂は国の重用文化財にも指定されており、カメラのファインダーに収まりきらない立派な規模を誇っている。また、この寺は浄土真宗の開祖・親鸞聖人と濃厚に関わりがあるという点でも有名である。親鸞聖人は越後国府(いまの上越地方)に流されて、しばらく越後地方で生活をしていた。そのために、上越地方には親鸞聖人にまつわる史跡や伝承が多く残されているらしい。
 この寺の由緒について案内を参照に記録するが、浄興寺とは親鸞聖人が常陸国(いまの茨城県)で、浄土真宗の根本経典とも言える「顕浄土真実教行証文類」いわゆる「教行信証」を書いた寺である。下総信濃と移って川中島の決戦で一度消失したものが、上杉謙信公の招きで今度は春日山城に移り、福島城下を経て、高田城築城と同じタイミングで現在地に移されたのだという。
 境内には、親鸞聖人の頭頂骨を安置する本廟があり、それを守る唐門と横に長く伸びる塀に動植物の彫刻が施されているのだが、これらの造りが緻密かつ流麗で見ごたえがあった。本堂には阿弥陀如来がまつられている。人気のない堂内はとても静かで、椅子に腰かけて内陣をみつめていると、ゆったりと落ち着いた気持ちになれる。本堂をあとにして、今きた道に復帰しようとすると、境内庭園を大きな熊蜂が、私のものすごく近くで、しかも目線の高さで猛々しく飛行していたので恐ろしかった。

 宿舎への帰途の道すがら、司令部通りから分岐する青田川沿いの遊歩道に入る。この先に、私が当地を訪れて以来、かねがね興味を抱いていた旧師団長官舎が建っている。これは明治四十三(一九一〇)年に、旧陸軍第十三師団三代目師団長・長岡外史中将の命で建てられた洋風建築である。私は有名無名や大小を問わず洋館には目がない。
 川沿いの小道を歩く。木々の碧を揺らす風がさわやかで心地いい。長官舎までは小さな看板で案内がされているが、辿っていくと道のない小さな公園のような場所に出てしまった。そちらだろうと思われる方向へ、飛び石を渡りながら歩いていくと、今度は池の周りに竹林や数々の草花が生い茂る庭に出た。瞬間に世界が変わった気がした。そこだけが周りと切り離されているような、どこか、おとぎ話に出てきそうなところだと思った。ふと目線を上げてみて今度はハッとした。その庭を見下ろすように、小高い丘の上に白亜の小洋館が建っていたのだ。これが旧師団長官舎。創作のなかに迷い込んでしまったような、なんとも現実味のないロケーションに佇んでいる。丘を上り、官舎のそばまで近づいてみる。そのまま建物を正面側まで回ると、こちらはコンクリートの道路に面していて、しっかり現実と接続されているみたいであった。
 旧師団長者は白塗りが鮮やかな木造の洋風建築である。明治の後期に建造されたためか、同時代初期の見よう見まねの“擬洋風”は克服され、洋風建築としてすっかり様になっているように見えるが、よく注目してみると、屋根がまるで瓦を張っているようで、また正面玄関の小屋根の頂部などは完全に日本流の意匠がされていて、やはり日本の棟梁が腕によりをかけて造ったもの知れ、適度な和洋折衷となっている。
 入館は無料。管理は市でやっていると思うが、事務所の様子をうかがったところでは、なんだか近所のおかあさんがやっているようにも見え、お友達と寄合い、賑やかにヤイヤイと歓談をしていた。挨拶を交わした後も、付きまとって説明したりなどはなかったので、どちらかというとひとりでのんびり見学していたい向きとしては、こちらの方が気安くていい(説明してくれるのもありがたいけど)。官舎は二階建ての造り。一階は一部が和室で、応接室や書斎などの師団長の職務も果たせるような部屋が造られている。二階は完全に畳張りの和室ばかりで、一家の住居スペースとして使われていたようだ。
 師団や長岡中将などについての資料も展示されているが、それらは控えめに抑えられていて、家具や装飾で当時を再現するということをメインにされているような印象を持った。私は洋館に勉強をしに訪れるわけではなく、ただ在りし日に思いを馳せるような時間を過ごしたいと思っているので、展示は少なめで、調度品もしっかり置いてある師団長官舎は、まさに私好みの時代建築である。椅子には自由に座ったりもできて、何かと訪問者に親切な洋館に思える。何も考えずに邸宅を見て回るだけでとても楽しい。二階の階段ホールに造られた星と月の障子模様が面白い。窓から差し込む光で、星と月の形が浮かび上がるのだ。
 例の“現在から取り残された庭”を通って帰り道に着く。高田は、思ったよりも見所のある町である。午後からは図書館で勉強しようかと思い、宿舎に歩きながらまずは昼食を摂る店の算段をするのだった。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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