野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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鶴岡独歩記(つるおかひとりあるき)

 鶴岡滞在中のとある休日。午前は当地出身のクラスメイトと過ごしたが、午後からは彼が別の予定があるという事情だったので、これからは自分ひとりで街を回ることにした。午前に市街の代表的な観光スポットを巡ってきたので、このコンセプトのまま、この日のうちに鶴岡名所のメジャーどころを押さえようと意気込んだ。
 用事に出かけるクラスメイトと彼の母親(その節はどうもありがとうございました)に送られるかたちで、致道博物館にやってきた。ここは庄内地方の歴史や郷土文化に関する資料や古い土地建物を多数所蔵する複合型の博物施設である。「致道」というのは、庄内藩校「致道館」からきているもので、「論語」の「君子学んで以て其の道を致す」に由来している。
 洋館好きの私の目星は完全に建物に限られており、ここが所有する二つの擬洋風建築のことしか頭になかった。一つ目が旧西田川郡役所(重要文化財)である。明治十四(一八八一)年竣工の擬洋風建築で、博物館の外からも見える、致道博物館のシンボルである。どこか松本の開智学校を連想させるような(開智学校ほど奇抜さはないが)シンメトリックな白亜の洋館だ。玄関上のバルコニーと中央の時計塔が印象的である。かつては郡役所として、明治天皇東北御巡幸の際に御宿所となったという歴史もある建物だが、現在は考古学資料と、明治文化の資料などの展示に使われている。一階に考古学、二階に明治時代というように分けられているが、なんというか、展示内容もそうだし、内装からして長い間変わらずにこのままだったのではないか?と思われるほどに、館内にはレトロな味や、カビ臭い香りが残されている。なんとも垢抜けないトホホな展示に苦笑いしてしまう。だが、いくら垢抜けなくとも、二階の明治文化の資料自体は見ていて楽しかった。あの頃の人々の衣装の、和服洋服入り混じった折衷感がたまらなく好きである。また、建築として見れば、二階から三階へ上がるつり階段(上れないけど)が面白かった。あれは十七世紀ルネサンス時代初期に流行した様式だそうだ。
 致道博物館内にはもう一つの目玉として、旧鶴岡警察署庁舎という洋風建築がある。私はこちらの方を楽しみにしていた、の、だ、が。何とも間の悪いことに、現在この建築は改修工事の真っ最中であった。この大工事は今後も長いこと続くようである。鶴岡で一、二を争うほど楽しみにしていたものなので、これに対面することが叶わず、完全に意気が沈黙してしまう。それでもせっかくだからと、その他の展示や建物も一回りしてみたが、心ここにあらず、最後まで惰性で見ている観は拭えなかった。旧渋谷家住宅という、豪雪地帯の民家は、暗くて不気味で面白かったけれど。博物館敷地内を出て、すぐそばのカフェーでソフトクリイムを食べて落ち着き、気を取り直す。

 鶴岡公園に戻り荘内神社に参拝をしてから、園内の藤沢周平記念館を訪ねた。「蝉しぐれ」「たそがれ清兵衛」などの作で知られる作家の藤沢周平先生は鶴岡市の生まれで、市内には先生や作品にゆかりのあるスポットが点在している。そのハイライトというべきが、この藤沢周平記念館である。私は、先生の作品は一つも読んだことはないので、作品についての展示を見ても共感することはあまりないだろうと思ったが、藤沢周平というひとりの作家の生い立ちに触れることで、何か勉強になることはあるだろうと期待していたのだ。
 館内には各作品の原稿など、素人目に見ても貴重と分かる資料がたくさん展示されている。作品創作の背景のセクションでは、案の定『へぇ~、こういうのも書いてたんだ~。』と呑気に思うのが関の山であった。熱心なファンであったら同じ展示を見ても、感じ方の重みというのは違ってくるのだろう。一角に、先生の書斎が再現されていた。誰の、何の業種に限らず、仕事場の様子というのは見ていると気持ちがしゃんとする。壁一面に並ぶ本棚や、それだけでは収まりきらず床に平積みされている資料の几帳面な佇まいに、先生の勤勉な人性が現れているようだった。随筆集を一冊購入。
 もともと雲行きは怪しかったが、記念館を出る頃、ついに雨がぽつりぽつりと降り始めてきた。これくらいなら傘を差さなくても凌げるが、いつ本降りになるか分からないので、そろそろホテルに戻りながら、できるかぎり各所に寄り道していくことにする。

 日々の散歩でやけに目に付く赤いとんがり屋根、鶴岡カトリック教会天主堂を訪れてみた。カトリックの信仰はないが、建築的な興味があったのだ。良くも悪くもミスマッチしている武家屋敷風の門の中、天主堂は建っている。異国情緒漂う白亜の教会の上には赤いとんがり屋根。その頂に十字架が掲げられているのが見える。この教会は明治三十六(一九〇三)年に完成した。鶴岡に西洋文化が取り入れられるさきがけともなった建造物で、明治西洋建築の傑作とも呼ばれているほどで、いまは国指定の重要文化財にも選ばれている。なお、この教会は幼稚園の敷地内にあるために、なんとなく休日じゃなきゃ見学しづらかった。
 薄暗い聖堂は妙な静寂に包まれていて、空気の質感が違っている。寺社仏閣もそうだが、宗教的な場所が特有する、静かだけどどこか胸のあたりがそわそわしてしまうような空気は、海の向こうからやって来たものでも変わらないように思える。仏陀流でもジーザス流でも、その空間にいると、人智を超えた世界がたしかに存在するような気にさえなる。弘前カトリック教会のような、和洋折衷の畳張りが面白い。外の明るさに照らされる「キリスト誕生」などの窓絵は、ステンドグラスのように見えるが、実はそうではない。これは「貼り絵」という手法で、紙に描いた絵を二重のガラスで挟んだものである。高価なステンドグラスを代用する方法であるらしい。この種類の窓絵は、日本ではここ以外では見ることができない。また、ここにあるもう一つの“日本唯一”が、天主堂完成を記念してフランスのデリヴランド修道院から寄贈された「黒い聖母マリア像」である。聖堂左の副祭壇に立っている。いわゆる聖母子像の形式で、幼いジーザス・クライストも彼を抱く聖母マリアも、表情がなんともいえず生々しく、暗い聖堂内で顔を見つめていると、少し怖い。私が聖堂に入ったときに、観光の一家がお先をしていたが、事あるごとにヤイヤイと煩く大いに風情を損ねる。私のわがままでもあるが、そもそも教会なんだから、少しは静かにしてほしかった。外の雨は今なお小降り。

 この日はここで最後と決めて、天主堂からすぐ近くの無量光苑釈迦堂を訪ねた。これは別名を風間家旧別邸と言う。本邸の丙申堂(へいしんどう)は同日午前にクラスメイトと観光したが、この入館券で釈迦堂の見学もできるということなので続けざまに訪れたかったところを、ちょっとした都合で丙申堂の訪問でお仕舞いになったのだ。クラスメイトの無念も背負い、ひとり釈迦堂の門をくぐった。
 先述の通り、釈迦堂は風間家の別邸で、来賓の接待や関係者との集会に用いられた小さな邸宅である。管理人が常駐していて、要所要所を丙申堂との比較をして説明してくれたが、肝腎の丙申堂では、おばあちゃんのせっかちな案内に連れまわされて、細部まで観察することができなかったので比較されても感情移入ができず、それを何とか悟られないように『はあ。』や『成程。』と頑張って合の手を打っていた。
 釈迦堂は庭園がいちばんの見どころで、広大な敷地に多種多様な木々が植えられている。季節的には初夏の候で、ツツジの花などももう落ちてしまったので、この日の庭園は青々としている。NHKの「鶴瓶の家族に乾杯」で女優の野際陽子さんがここ訪れたときに座ったという籐椅子に揺られて、何も考えずに庭をただ眺めているのは贅沢なことである。しかし、いい気分に浸るのは許さないとばかりに、先ほどからの小雨は雨足を強め、ついにはスネア・ドラムを打ち鳴らしているような物凄い勢いとなった。折りたたみの傘は持っていたものの、この大雨のなか飛び込むのもいやなので、しばらく雨宿りをしていようと思ったが、勢力が一向に収まる気配がない。
 庄内人の気安さからか、管理人さんと色々の言葉を交わすうちに、私の素生は知られてしまうのだが、いままさに実習に励んでいる病院について、よくない印象ばかりを述べるのはいかがなものか。庄内人の気さくさは美徳の一つであるが、それは度を過ぎればただの無神経ということになる。先方に悪気がないのは分かっているが、お世話になっている病院のことを悪く言われてムっとしてしまった。また、件の大雨と、いつ見たのだろう、私が履き古したジャック・パーセルの外貌を受けて、「あのオンボロのスニーカーじゃすぐビショビショだね。」などという。その通り、私の愛用のジャック・パーセルは旅行の足ともなることも多かったせいか、履いている年月の割に薄汚れ、さらに言えば底の方に穴が空いている。どこから見てもオンボロであることには違いないが、それにしても、会って間もない他人の持ち物を、いきなり「オンボロ」呼ばわりできる人の心とは一体どのようなものか。
 本当はもっとゆっくりと過ごして雨宿りに粘っていたかったが、ついムっとした気持ちを覚えてからはそこにいることすら嫌で、相変わらずの激しい雨あられの中、ホテルに戻るべく釈迦堂を後にした。オンボロのジャック・パーセルが雨水に濡れ、それに包まれた私の足にまで水が浸ってくるのは、外に出たほんの数十秒後であった。


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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

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