野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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只見線莫迦列車 七 喜多方独歩記(きたかたひとりあるき)

 十三時二十三分、磐越西線喜多方駅に着到した。初めて降りたが中々開けていて小ざっぱりとした駅である。外観としてはレンガ造りで、町の特徴に合わせた意匠になっている。
 ひとまず観光案内所で町の地図を手に入れて、あとはどこをどう見て回るかというところだが、喜多方に来たからにはと思い、代名詞である蔵が集まった通りを中心に歩いてみることにした。駅前の大通りを進んで途中で右左折をすると、そのふれあい通りに合流する。
 二度目の曲がりの際、交差点の角にラーメン屋があった。喜多方といえばラーメンも名物として名高い。そのお店は喜多方ラーメンの発祥と言われているため、お昼時の効果もあって、店の前には行列ができていた。ラーメンは気にならないわけではなかったが、列に並んでまで食べたいとは思わないし、そもそも会津若松で立ち食いそばを食べて、あまりお腹が減っていないので、行列を横目に見て通り過ぎた。
 喜多方は蔵の町と言われ、現在も実に二千六百棟もの蔵が建っている。なぜそれほど多くの蔵が造られたのかというと、これは酒蔵の人から聞いた話だが、喜多方では明治の時代に大火事があって町全体が燃えてしまったのに、蔵は燃えずに残っており、蔵の耐火性や耐久性が改めて評価されることになり、それから次々と蔵が造られることになったのだそうだ。また、この町では蔵を建てることが一人前の証とされていて、ただ建てるだけでなくその出来映えも重要で、旦那衆はこぞって趣向を凝らした立派な蔵を造ろうと商売に励んでいたのだ。
 ふれあい通りは、市街の中でもとりわけ多くの蔵が文字通り立ち並び、喫茶店や商店など様々な用途に活用されている。たくさんの旅行者の姿も見かけるところを鑑みると、この通りが喜多方観光の主要な地域であるらしい。
 若喜商店という醤油の醸造元のレンガ蔵は、喜多方でも最も古い蔵の一つである。二階建ての蔵座敷になっていて、一階部は縞柿という珍しい木材をふんだんに使い、他にもあらゆる贅を尽くした間で、一般に公開されている。てっきり座敷に入れるものと思っていたが、立ち入りはできず、表からはガラス越しに、裏からは柵越しでしか見ることができない。柵に両手指をかけて、顔を近づけ網目の隙間に目をあててやっとのことで座敷の内部が見れるのだが、まるで囚人のような格好にそのうちに侘しくなり、屋外にいるのにこちらの方が閉じ込められているような肩身の狭さを覚えた。
 近くに酒蔵がありそうだったので、大通りから一本奥の小路に入った。午後になると日差しも強くなってきて、日なかを歩くのが辛いので、日陰を辿って歩いていくと、住宅の多い静かな地区の真ん中に、広大な大和川酒蔵がデンと構えていた。私は酒を飲むのが好きだが銘柄には気が回らず、よって大和川と聞いてもよく分からない。杉玉の掛かる表門をくぐって蔵の中にお邪魔をする。受付に見学希望の旨を伝えると、案内は十五分ごとに実施しているが、ちょうどその時間であると言う。同時に門をくぐった男性二人組と共に、蔵内を案内してもらうことになった。
 主に三つの蔵を順々に巡って説明を聞く。説明と言っても、酒造りを最初から終わりまで辿って講釈をするといった小難しいことはせず、昔ながらの酒造りの道具や自社米についてなど、展示品について即時的に解説を付け加えるといった程度で、私のような素人にも易しい。終わりの蔵には、現在大和川酒蔵が製造している銘柄の酒瓶が横にも奥にも雛壇状にズラッと並んでいて、この世の楽園かと思った。ここに至ると、説明は商品の宣伝に移るのだが、最後に利き酒という催しが予定されているみたいなので、なんとなくの目星をつけてみる。そしてついに、門をくぐったときから待ち望んでいた試飲会が始まった。お猪口を一つ手に持ち、ありとあらゆる銘柄を試すことができる。いちばん辛いものやとにかく甘いもの、福島らしく桃のお酒も次々飲んでいくが、味は違ってもいずれも質は高く、すぐにいい気分になる。最高級の銘柄は有料であるが、当然のように頼んで飲む。酒の良し悪しなどよく分からぬ私でも、この銘柄は他のものと段違いに美味いことが分かる。酒をタダで飲ませてくれるのは実に有難く、いつまでもその恩恵に預かりたいのだが、それでも限度というものがあるので、そろそろと思ってごちそうさまでしたと杯を返したら、酒蔵の人から「あれ。もういいんですか」と言われたが、「いえ、もっと飲みたいです」とは言えず、旅中ということもあって、止めにしておいた。
 いい心持で街を歩くが、なんだかもう十分な気がして、そろそろ駅に戻ろうと思った。その中途で蔵屋敷美術館という施設を訪ねてみる。この美術館は近くの旅館の持ち物である。この旅館の三代目が画商としても働いていたために、竹久夢二先生をはじめとする高名な画家との交流があり、多くの作品を集めている。そして蔵の内部を美術館として、それらの作品を展示して公開しようという運びなのだ。蔵の一階二階に作品が収められているが、小さいながらも蔵の中ということでそれだけに面白い。竹久夢二先生は周知していたが、浅学のためにその他の画家先生の名前は存じない。だが私は美術館という空間そのものからして好きな性分であるため、あまり気にしない。別に誰々先生の作品だからいいとか、そういう見方はしない。平福百穂先生と小林古径先生の色紙が並んで表具されてあった。平福先生は私と同じ秋田県出身の日本画家で、小林先生は今年の春に私が滞在していた新潟県上越市高田の生まれである。自分と少しでも縁のある画家の色紙が並んで飾られているのは、なんとなく嬉しいことである。
 ふれあい通りを外れる交差まで歩いてきたが、先ほどに行列ができていたラーメン屋の前が、だいぶすっきりとなっているのを発見した。時刻は八つ時だが、街中を歩きまわって小腹が空いていたし、そして何よりも私は先頃に日本酒を飲んでいる。酒を飲んだ後に食べたくなるのは、ラーメンというのが相場である。そもそも店はまだやっているのかが心配だったが、杞憂に終わった。相席を頼まれて、一寸嫌に思ったが、強く拒否する理由もないので、頷いた。見知らぬ若年男性と席を共にするが、その人は料理が待っている間はひたすらスマートホンに手垢をこすりつけていて、脳髄からの指令で指を動かしているんだか、スマートホンからの指令で指を動かしているんだかさっぱり分からない。勢いで店に入ってしまったが、戻りの列車に間に合うかがまた心配になった。ここから駅まではそれなりに距離がある。店には他のお客もいて、注文品を待っている。自分の料理が出来上がるのが遅れてしまった場合、食べてすぐに走らなきゃいけないのではないかとも思ったが、料理は何事もない時間で運ばれてきた。ラーメンにはチャーシュー二枚メンマ数本ナルト一片が乗せられ、ラーメンというより中華そばと呼びたくなってくる。喜多方ラーメンは平打ちの麺が特徴的なのだが、それよりも私はあっさりとした醤油だしのスープを気に入った。このスープの味も、ラーメンというよりは中華そば然としている。新潟で食べられる、流行りの背脂系統のラーメンも好きだが、こういう安っぽいオールドファッションとしてのラーメンも魅力的で捨てがたい。
 通りを歩いているときに気になっていたが、商店の看板に夢心という酒の名前が載せられている。夢心といったら、内田百閒先生の「東北本線阿房列車」である。この中で、百閒先生が福島で飲んだ酒というのがこれに違いない。作中では、「いねごころ」なんだか「よめごころ」なんだかで、結局酒の名前は分からずじまいだったけれど、「夢心」が正式だったようだ。身の程知らずで莫迦列車などと自称している身、百閒先生への敬意を込めて、駅前の土産屋で夢心を一瓶求めた。
 喜多方から新潟までは、十五時五十一分のSLばんえつ物語号で戻り返す。新潟無機終焉都市で生活を始めて以来、会津若松方面に用事があれば、往きか復りのいずれかで必ずこの機関車に乗っていた。私の新潟暮らしは今年で最後だと思われるので、もしかしたら私がこの列車に乗るのは、この日が最終であるかもしれない。
 SLが駅に到着する瞬間は、集まる人々の期待感で歩廊が華やぐ。優美なる貴婦人が、黒煙をあげて近づいてきた。(完)










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  1. 2015/10/03(土) 13:51:30|
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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

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