野良犬の生活

部活もバイトもやっていない堕医学生の暮らしを記憶するレポート

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上越線莫迦列車 一 始発列車

 H君とは学校のクラスメイトである。
 イニシアルがSで出席番号も遠い私がどうやって彼と知り合ったのかは今更憶えていないが、連れだってトレーニングをしたりして、今では級友の中でもとりわけ気安いひとりになった。
H君は一度どこかの大学を出てからこちらに入ってきたので、いくつか多く年を食っていることもあり、よくそんなことまで・・・と、思わず感心してしまうくらいに物を知っているのだが、その引き出しのひとつに鉄道というものがあった。
 私が今までに書いた旅行記を読んでもらうと分かると思うが、私は鉄道に乗るのが好きである。それで、ここに「鉄道」という共通項が生まれて、自然とそういう方面の会話をすることもよくあるのだが、私は鉄道に乗りこそすれ、その他詳細な知識は全くといいほどに入っていないため、H君の重箱クラスの話には付いていけず、彼の講釈を私が「ふうん、ふうん」と聞いているのがほとんどである。ちなみに私は鉄道に乗ればそれでよく、知識を入れること自体にはそれほどの関心がないため、彼の話はそれほど真面目には聞いてはいない。だから「ふうん、ふうん」と聞いているのである。彼と鉄道旅行をすることもあって、今年の春に書いたしまかぜの乗車記や伊勢志摩の旅行記に登場するクラスメイトこそ、このH君であった。
 彼に誘われるかたちで、今秋に私は北越急行のイベント列車「超低速スノータートル」に乗ることになった。この催事では、北越急行が持ち得るあらゆるサービスが総動員されており、それはもう実に楽しいものであった。鉄道旅行記を書く時はできるかぎりこの文体でと思っているのだが、しかしどういうわけかこの日のことはいつものようには書けずに、最早ただのイベントレポになってしまいそうだったので、今回はいっそ書かないことにした。だが、いざ書かないとなると、以下の本題で所々分かりづらくなるところが出てくるかもしれないので、冒頭の内にH君の素性も含めて記しておいたのである。
 さて、スノータートルに乗る際に、乗車券代わりに私たちが求めた切符は「えちごツーデーパス」であった。この割引の切符は、その名の通りに連続する二日に亘る効力を有している。その一日目をスノータートル乗車に充てて、それで十二分に元は取れている。だから無理に二日続けて乗る必要もないのだが、やはりこの一枚で相当広い区間を走れるというのは、実に魅力的なところでもあった。
 この切符があれば上越線の越後中里にまで行けるのだ。そこからわずか二駅のところには、あの土合駅がある。私は土合に降りたことはないし、それはH君もそうだった筈である。これは利用しない手はないと、H君と北越急行の旅中にあれこれと話して、果たして翌二日目に我々の土合行きが決まることとなった。そのついでに、私の希望で水上にも立ち寄らせてもらう。
 いちばん早い時刻に土合に到著する計画を取ると、新潟駅からの始発列車に乗らなくてはならない。その時間帯にはまだバスなどは走ってないし、周辺には気軽な駐輪場もないためにチャリで行くこともできないので、自宅から駅まで一時間ほど歩いて向かうことになる。この徒歩移動の他に色々な準備もあるので、始発に乗るためには、遅くとも発車時刻の一時間半前には布団から抜け出ている必要があると見えた。
 だが、この前夜、つまりスノータートルに乗った日の夜のことだが、私には別の案件で級友との集まりがあった。この会合は毎回、テッペンを割ってからのお開きで、帰宅するのも日を跨いでからになる。いつもはそれでもいいのだが、しかし今回は条件が異なっていては始発に間に合うために、日頃よりもはるかに早い時刻に起きないといけない。明らかに睡眠時間が足りなくなる。いつも十分な睡眠を取る私には事である。少しでも寝る時間を長くしたいので、その寄合は私だけ途中で抜けさせてもらって早めに帰宅できたが、それから入浴なり準備なりはしないといけないので、すぐに寝れるわけではない。それらの諸事を一つずつ済ませて、遂ぞ床につけたのだが、そのわずか二時間後に私は再び目覚めるのだった。魂の二時間睡眠。明らかに睡眠時間が足りない。ついでにいえば前日もスノータートル乗車のために、始発に近い列車に乗るべくかなりの早起きをしている。鉄道旅行者の朝は早いとはいえ、二日連続でこの起床時間は流石に堪える。
 午前五時十七分、新潟発の上り始発列車には、それなりの乗客数があった。前の日にH君は「かなり混む」などと私を脅したが、それほどではない。日曜日だが学生の姿がちらほらと見えるのは、おそらく部活動の朝練習のためだろう。中高の頃の私は部活動に熱心であったが、朝練の経験だけはない。だからあくまでイメージのみで話をするが、朝練というものはどうも、あまり効果的な練習法には思えない。
 長岡で乗り換えの上越線の車内でいよいよH君と落ち合った。H君は鈍行の始発には乗らないで、新幹線でここまできた。新幹線を使う案を採ると、わずかに長めの睡眠を取ることができるのだが、せっかく有効な切符があるのに余計な運賃がかかるのがかなり癪で、私は鈍行に乗ることを頑なに決めていたのだった。そもそもの貧乏症に加えて、卒業旅行の懸案から、近頃はさらに余分な出費を抑えるように努めているのである。今回、起床時間を無理くり早めて、新幹線に乗ることを控えたのは、自分の時間を売るということである。
 六時三十三分、長岡駅から上越線の越後湯沢行が滑り出した。ここからの沿線はそれなりにのどかな風景が見られるのだが、朝が早く血圧が低いことや、どんよりと怪しげな雲行き、そもそも昨日に同じ経路を通っていることもあって、この日は両者ともに冷静な眼差しで車窓を見ている。前日はいつものように、窓外に犬の散歩を見とめると「犬マンだ!犬マンだ!」などとはしゃいだり、農村の集落の畑を見て、喜々と野菜の話をしたりするが、この日もそういったやり取りはあるにしろ、意気は顕著に落ちている。が、別に不機嫌というわけではないので、気不味くはならないで、それぞれの朝食を貪っている。
 眼に煩いヒュッテのある上越国際スキー場とすれ違って一駅、二駅、三駅で越後湯沢に到著した。あまり時間もないので、御不浄に寄ったりしてすぐに乗り換え。八時十三分、上越線の水上行である。この頃になると、発車から程なく見える、バブル期に完成したような典型的スキーリゾートの中の某ホテルを見て「あれは“ブラックNEXT21※”だな。タイガーマスクで云うところのブラックタイガーのような、NEXT21の永遠のライバルだ」などという、思い返すと全く意味の分からない“ほら”を吹けるくらいには頭が冴えてきた。リゾート地帯を抜けて野趣溢れる山間部に入り、付近に集落等もなく一体何の用途があるのか分からない土樽駅を過ぎて、長いトンネルを抜けると、次なる停車駅は我々の目的である土合である。土合駅は日本一のトンネル駅として名高い。目当ての下り線とは大きく異なり、上り線の歩廊からは頭上に空が広がっている。雨に降られるのは覚悟していたが、案外と粒が大きくなってきたので、たまらず傘を開いた。晴れていればそれに越したことはないが、この冷やかな天候や山肌の木々に引っかかる真っ白いもやなどで、日本屈指の秘境駅を訪ねる感慨がさらに深いものになるとなれば、「生憎」などという後ろ向きな言葉を使う必要もない。我々はひとしきり写真撮影に勤しんだり、ひと時の感慨に耽っていたが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、構内へ。山あいの歩廊では雨のしとしと音ばかりが聞こえる。その静寂のなか、私の胸は案外と高鳴っていた。


※「NEXT21」・・・新潟死期終焉都市の哀しき繁華街・古町に建つビル。その高さと外見ゆえ、周辺でもとりわけ目立つ建物であるが、その内部には特に何かがあるというわけではない。テナントで入っていた書店はできてすぐに潰れ、来年にはファッションフロアの「ラフォーレ原宿・新潟」の撤退も決まっており、ますますゴースト・ビル化が進むことが予想されている。目先の合理性やその場のノリで使えない箱モノばかりを造り、結局中身や価値はゼロに終わる新潟死期終焉都市のお粗末な都市計画を象徴する建物の一つである。

  1. 2015/12/09(水) 19:00:00|
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筆者紹介

シバケン-いかれたNeet-

Author:シバケン-いかれたNeet-
Sex:\(`・ω・´)
Work:堕医学生
Base:新潟死期終焉都市

趣味はお散歩、特技は悪だくみ

筆者結語

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